書物蔵

古本オモシロガリズム

あるブログで「よくなってきてる」と評された国会の件名(のとくに付与)につき批判す

さいきん図書館ネタばかりで… つまりませんかねぇ。ほんとは古本の流通など広い意味での「図書館現象」をとりげたいんだけど… ま,いーや。
図書館関係者*1のブログをちょこっとだけ覗くようになった。あるブログで,国会でやってる件名標目がよくなってきてる,と誉めていた…
まー,「変わって」はきてますね
けど,件名標目については,まともな実務がなかった*2ということは,まともな評論もないというわけで*3,そんなに軽々に誉めていいものかと……,わちきは「なんだかアヤウイなことしてるなー」と思っているのだ。

議論の前提

どのレベルに件名を付与してるのか→著作全体に

何について書かれているか,が主題なわけだけど,図書館本にはくだくだ書いてあります。でも情報量がおおいと結局なんだかわからんので,ここでは「要約的主題」と「ファセット(主題の側面…かな)」って概念だけつかうね。
要約的主題とは,その単行本「全体で何なのか」ってこと。たとえば,清朝の本があるとしよう。明末や民国のことも書いてある,けどやっぱり全体としては,その本は清朝の本だから,分類・件名は清朝のをふるべきなのだ。本文の要素ではなくて,その著作全体としての主題にたいして記号をわりあてていく,これが人による主題分析(概念索引法という)の要諦なのだ*4

要約主題でさえ多面的なもの

たとえばここに『大清帝国の近代と海軍』という本があるとする*5
読んでみると,福建海軍とかのことも書いてあるけど,全体として北洋水師について書いた本。
じゃあ,それに件名をつけよー,となると,「北洋水師」でいいかというと,それでもいいんだけど*6,いちおー一般的な事物は普通名として標目表にのっているものを付けることになる。

Title  :大清帝国の近代と海軍
要約step 1: → 北洋水師
要約step 2:  → 清朝時代の北洋軍閥中国東北部の軍事政権)がもっていた海軍
標目に翻訳:    → 海軍-中国-歴史-清時代

あれれ,標目に変換(翻訳)すると,いつのまにか4つの言葉に殖えているよ。これは,人間がきちんと要約的に記号をふっても,その要約主題でさえ,大抵の場合,複合的なものだということ。いいかえると主題というのは多面的なものなのだ。この主題の多面性に着目して,その各面を切り出して記号を振りましょうと提案したのが,「図書館学の五法則*7で有名なランガナータンで,その面をダイヤの切り出し面にたとえて「ファセット分類法*8」なるものを発案したんだわさ。*9

で,話を国会の件名にもどすと

あそこの件名がよくなってきてる,ってのは,どーやら,
1)件名の新設を増やした*10
2)古い標目形を新しく訂正 例.ホメオパチー → ホメオパシー
3)参照形を増加させている
4)OPAC上で標目からの再検索がワンクリックで可能に
5)OPACで参照形が見られるように
ってとこなんだろーけど,本質的に誉められるのは1)だけですねー。あとは枝葉末節。とくに5)はお粗末,ってかゲラゲラ笑える。いや,便利ではあるんですよ。
ただ,5)の機能は本来,件名標目表(OPAC上では典拠ファイル)を強化して客にみせるのがスジなのに,みせかけの便利さで世を謀ろうとするとは。いや,世をたばかるのはいいとしても,自分たちもだまされてないか。アヤスィーなぁ。
件名をよくするには,実際に使えるデータ(付与実績)群を用意すること,これにつきる。協会の件名委員会が,教科書で教えるための件名標目表を作ったけど,そんなことは二の次なのだ。司書課程のために図書館実務が存在しているのではない。逆でしょ。
で,実際につかえるデータとは,それぞれの書誌データに(要約的)主題の多面性をきちんと反映させた件名を付与していくことなのだ。いいかえると,件名を新設するだけじゃだめで,「-中国」とか「-歴史-清時代」とかのsub-division*11を必要十分な程度に付け加えていくことなのだ。きちんと細目をつけた件名を付与することのほうが,件名新設よりも大切なことだよ*12
あと,4)のロジックも細目の重要さを考えれば手直ししたほうがいいねぇ。完全一致で再検索がかかってるみたいだけど…,すでにある細目付きが泣きますよ*13。ノイズはでるけど前方一致にしませんか。■

*1:図書館職員や司書,図書館情報学者らのことを総称してこういう。librarianshipが内面化したものを「図書館人」という。

*2:前も書いたけど,件名付与に従事してる人って国内で100人いないんじゃないか。なのに司書課程で毎年数万人に教えてるのも不思議。

*3:いや,協会の件名委員会があるじゃん,なんていう反論はなしにしてちょ。まず一般論として,業界団体の委員会がそんなにいつもスンバラシーものであるとは限らないこと。それに,件名が日本でこんなにヘロヘロなのは,あの委員会のせいといっても過言ではない! ひとつ,業界政治的な失敗,いまひとつは,技術的な失策,によるのだが,これはまた今度ね

*4:シロトや小才子に限って,「あれも載ってる,これも載ってる。それらが引けない件名は不便(or無意味)」っていうけど,そんなことはそれこそ機械検索や自動索引の独壇場なワケで,たっかーい人件費をかけて要約的主題に記号をふるのには特有の良さがあるのだ。これについては別に論じるけど,「要素をいくら集積させても全体を代表することにはならない」ということと,人工知能論が「文脈問題」で頓挫しているということがヒントとなる。

*5:こんな本ないよ。

*6:固有名件名としてつければ,これで可。ただしここらへん微妙な問題あり。

*7:これはタイトルが最悪。「学」の「法則」だってゲラゲラ。他学問からは冗談としか思えない。笑われないように「五つの司書道」と訳すべし。それなら意味があるよ。

*8:ファセット概念と列挙型分類や件名の細目の概念は,学理上,別物と理解すべきだけど,ここでは方便として同じに。

*9:記号をコロン(:)でつなげるから「コロン分類法」ってのが固有名だったか。なでもこの分類法はアイデア倒れに終わった。ぜんぜん使えない。そもそも記号の付与ができないらしいんだわさ。北インドの数館でしか使用実績がないそうな。

*10:「特定記入の原則」を遵守? ならよし!

*11:細目と訳す。先頭の件名を主標目という。ここの例では「海軍」がそれ。

*12:主標目はあとから標目表整備時に一括していじれるが,細目の要不要は一冊一冊,主題分析をやり直さないといけない→ものすごい手間→結局できないから。

*13:「海軍-中国」を上手く引き当ててクリックしても,「海軍-中国-歴史」や「海軍-中国-歴史-清時代」はヒットしないということ。