書物蔵

古本オモシロガリズム

検閲官のお仕事は

訳者が発表をするというので、専修大学へ聞きに行った。
ロバート・ダーントン [著]ほか. 検閲官のお仕事, みすず書房, 2023.12.

この前、出たばかりの時に買ったもの。忙しくて最初のところしか読んでなかったが、古今東西の検閲事例が載っていて面白い本。
この本では権威主義体制の下での検閲事務が列挙されているということで、しきりに大日本帝国憲法下での検閲事務が対比できるのではないか、と発表者たちは言っていた。「それはまさにここ十年以上、千代田図書館附属(?)委託本研究会がやってきたことだなぁ。比較は考えられていないけど」と思って聞いていた。考えてみれば、日本出版学会の歴史部会、その別動部隊が「日本出版史料」をやっていて、その流れの片鱗が委託本研究会へ流れ、そして別の片鱗が「近代出版研究」へ打ち寄せられているのかぁとも思った。日本の近代出版研究の流れについては、今度の4月に出る『近代出版研究』の巻頭座談会「「書物雑誌」と雑誌の「書物特集」を読むとあらあらわかるはず。
www.libro-koseisha.co.jp
発表者の先生たちがさかんに比較は面白いがダーントンだからできることで、ふつうは難しいよねと指摘していたが、二人目の質問者が、言語学における比較言語学と対照言語学の立場の違いを考えてダーントンの立場(観点)を考えるとよいのでは、と言っていて目からウロコだった。つまり「似ている」と素朴に感じられているものがあるとして、それが系統関係にあるのか、まったく関係ないのに思わず似ちゃったのか、という違いがあるだろうということ。ホモロジーとアナロジーの違い。
日本で検閲研究はずっと法制史や憲法学で行われてきた。
奥平康弘などの概説がある種、教科書として読めるものとしてあるのだけれど、
dl.ndl.go.jp
検閲の定義については、実はドイツ新聞学などもやった和田洋一がいちばんスッキリとした整理をしている。
cir.nii.ac.jp
それがいま言った委託本研究会によって、より歴史学っぽくなっていて、そこではまさにヒラ検閲官(まぁノンキャリ)が一生懸命まじめに出世のために検閲のお仕事に打ち込んだり、
第16号:ある検閲官の肖像 ―内山鋳之吉の場合― 2017年3月発行
趣味で出版調査をしたりしていたことが明らかとなっている。
第15号:〈文学のわかる〉検閲官 ―佐伯慎一(郁郎)について― 2017年3月発行
www.library.chiyoda.tokyo.jp
ダーントンと似たようなアプローチを日本でもとってたのが委託本研だったのだなぁと、これも聞きながら心に浮かんだことだった。
また、ダーントンは欧米ではいまだにそれなりに人気なのになぜか日本では翻訳されなくなっちゃってることもわかった。
などなど余剰の部分でいろいろお得な発表だった(前回はちがう方向の質問をてんこ盛りにした人がいてツラかったし)。
会場がとっても寒く、早々に飲み会へ逃げだしたが、そこでは出版史や古本趣味の話で盛り上がって楽しかった。