書物蔵

古本オモシロガリズム

手帳、日記帳は納本されてゐた乎?

 手帳、日記帳の類が戦前に検閲・納本対象になっていたかどうかについてメモ
出版法によれば、印刷物は一般に包括的に義務納本の対象となるが、例外については納本義務を課さない、というロジックを採っている。
「出版法9条「書簡、通信、報告、社則、塾則、引札、諸芸ノ番付諸種ノ用紙證書ノ類及写真ハ〔略、納本や届書の届出〕ヲ要セス但シ〔略、安寧秩序紊乱や風俗壊乱の内容があれば〕此ノ法律ニ依リテ処分ス」
http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewEnkaku.do?i=KuJLgpINjtV4%2fTNCWtrumg%3d%3d

 一見すると、手帳や日記帳は「諸種ノ用紙」の下位概念になると思はれ、納本・届書の提出義務がないように思われるが。
 おそらく印字部が多い手帳、日記帳は納本されてゐた可能性が高い。たとへば、ググブクると、『出版警察報』第 13 巻 龍渓書舎 p.54ノ3*1 に『労資手帳』なる手帳・日記帳が発禁になった記事がでてくる。

労資手帳 産業労働調査書編 東京/永田周作/発行 二月二十五日発行/二月十七日禁止

本書ハ労働者農民ヲ目標トシ社会主義的観念ノ下ニ各種ノ統計ト主要大会経過、国際労働日記等ヲ収録シ、後尾ニ日記帳ヲ配シタルモ共産主義ノ宣伝、階級闘争ノ煽動ニ終始スルモノナルニ因リ禁止セラル。
出版警察報』(54)p.3(昭8.3)

この手帳兼日記帳を出版したのは、東京神田区同朋町廿二において永田書店を営む永田周作。昭和15年には牛込区南榎町五七番地に移転しとるね。ナチスものを出版しているから転向したのだらう。戦後はなくなったみたい。

*1:「109 ページ」とググブクに出るが、まちがい。