書物蔵

古本オモシロガリズム

『よしの冊子』の世界

shomotsubugyo2006-07-06

水谷三公がかいた『江戸の役人事情』(ちくま新書) を読んだとき…
びっくりした。
江戸時代にも「噂の真相」があったんだねぇ。イエロージャーナリズムって言うんだっけか。『よしの冊子(そうし)』ってのが残っているんだそうな。なんでも,真偽とりまぜて「○○のよし」って話ばかり。
もちろん,明確なマチガイもあるという。けれど,そういう噂があったのは事実。

森崎震二氏没す

森崎震二氏… 先月末に亡くなったという。わちきは会ったことはないが…
手許の『図書館関係専門家辞典』(日外アソ1984)をみると,昭和12年生まれとあるが,これはマチガイ。だって『全国図書館職員録』(昭和30年)に32歳とあるんだもの。ニチガイの履歴をみると昭和25年に国会図書舘に就職し,昭和56年には専修大学文学部助教授になったとあるが,信頼性が…がっくし。
不思議なことに昭和27年に慶應の図書館学科を卒業とある。へー,あそこは給料もらいながら,さらに大学に行けるのか(・o・;)
ところで…
わちきのブログ,じつは『よしの冊子』を多分に意識している…
〜〜〜
これまた手許に一冊の古雑誌がある(画像参照)。どうして入手したんだったか… 誰かにもらったんだったか…
『全貌』… って今のひとは全然わからんか…
む? 表紙になにやら扇情的な惹句が

秘密はここからつつ抜けている/国会議事堂と国会図書舘の細胞(昭和38年6月号)

細胞ってのはロバート・フックが17世紀に発見した…???
この,無署名のフシギな記事の主人公は誰あろう森崎さんなのだ。基本的には氏の私人としての行いや政治的信条を調査してまわった暴露記事(書きぶりがいやらしいし,私生活はどうでもいいんで,このブログでもさすがに控えさせてもらう)。まぁ,本人や周りの人がみたらめちゃくちゃ怒るにちがいない。いまだったら訴訟で勝てるぐらいのもの。けれどわちきは図書館史マニアだから違う観点からみてみたいのだ。
まずは,じつは慶應卒じゃなくて東大文学部卒。慶應は2度目の学士入学ということがわかる。
この記事,図書館にあるという職員組合の執行部リストを提示して,だれがニッキョウ(ニットキョウじゃないよ)のメンバーなのか,はたまたシンパ(演劇?)なのかかを示し,だから「執行部は細胞の掌中に握られ」ていると断じている。山崎さんも出てくるねぇ。住谷氏も。にぎやか。o(^-^)o
はぁ〜 歴史だねぇ。東西冷戦華やかなりし頃のなつかしさがよみがえるよ。

けなしてるの? ほめてるの?

この無名著者の意見はともかく,おもしろいのは,これら党員・シンパのひとりひとりの館内における評判を記述している点。
それがおもしろいのは。
「○○は苦学力行型で頭もよく(略)スポーツマンで,明るい性格から党員らしくないというも」
「××は(略)無口のねばり強い性格を買われている模様」
って,ぜんぜん誉めてるじゃん! 奇書だのう…
さらに…
「国会図書舘では職場結婚が非常に多く」とか,「不思議なのは女の方が男より強いということですよ。顔だって男のような顔つきだし」とか。おそろしや。
ますます奇書なる図書館本 (・∀・)

『図書館用語辞典』(1982)

で,わちき自身が森崎氏のことをどう思っているかというと…
一目おいてる,というところ。
なぜって,アタマがいいから。

なかなかの理論家だというのが若い職員間で評判になっており

と,当時からそういう評判がたっていたんだねぇ。
まあ,わちきの好きなアタマの良さってのは「概念操作が得意」ぐらいに考えておいてちょ。
この森崎氏が大学に転出した直後に出た『図書館用語辞典』(角川1982)。この,トモンケンがだした辞書の編集委員長が森崎氏。これ,わちき好きなんよ。
なぜかって,理由を書き出すと…
1)固有名が多い(とくに日本図書館界
2)イデオロギー的にはっきり評価が書かれている
3)装丁
の3点かな。
1)については,図書館史マニアだから,って今となっては言えるけど,

実は館界に新規参入する時に困るのは,団体名とか報告書・業界誌だとかの固有名。

目録の取り方とか,DBの引き方とかは司書課程でそれなりに面白くできる(から憶える)けど,固有名は(よっぽど有名かつ,賛否が分かれてないもんじゃないと)習わないからねぇ。
ついでにいえば,どの団体が無色だとか左派だとか分かればなおよい。
自分は「どっちつかずのノンポリ」だから『図書館雑誌』だけでいいや,とか,「民衆に奉仕したい」「汗や涙を流したい」となれば『みんなの図書館』だし,そーゆーのキライ,オタクでいいやとなれば『情報の科学と技術』になるし。けど,こんなこと誰も書いてないでしょ(って,いまここに書いちった(^-^;)アセアセ)
ということで,2)もこの辞書は満たしている。もちろん,むやみやたらに断罪しているんじゃなくて,わりと合理的な基準をしめしたうえで(進歩史観だけどね),それにのっとって評価している。
なにが論点で,ある特定(当時としては館界多数派)の観点からはこう見える,ということがはっきり書き出されているのは,わちきみたいに「後から来た者」にとってはありがたいことこのうえなし。
そーゆー意味で,わちきはこの辞書やその執筆者・編集委員・そして亡くなった委員長に感謝! なのじゃ。

オチ「○○のよし」

え? オチはもうあったって? ん。 たしかに森崎氏の悪口を書いているようでいて実は,若干ほめているという逆説的オチはついているね (・∀・)
でも…
じつはもう一つオチがある。
それは…
記事そのもののことじゃ。
この内容…
だれか内通者がいないと書けないよね (・∀・)
それが誰かということだが…
普通はワカラナイよね,って当たり前か。
で…
わちきはある人にこれを見せて聞いたんだわさ。
「○○だという噂はあったけど,そんな無責任なことは教えられない」
だって(×o×)
けど,ひとつ重要なサジェスチョンが。
それで思い出したのは,この部分。
「このように,党員とシンパが執行部の主導権を完全に握っている関係上,非党員の執委が日共の方針をはねのけることは殆ど不可能の状態にある」
まあ,すべてが「○○のよし」ということで。森崎氏の死去で,これも歴史になったのう。
(この項おわり)
追記:この『全貌』には他にも関係記事がある。総目次ででも探すがよろしかろう (・∀・)