書物蔵

古本オモシロガリズム

来年の図書館本,書誌学本

友人Aやジュンク堂の怪人さんその他から,来年の図書館本・書誌学本の刊行予定が舞い込む。

『書痴斎藤昌三書物展望社八木福次郎平凡社

先日の書物合戦で友人がキントトさんとこで掘り出した『はだかの昌三』を見たばかり。この本は,雑誌『いもづる』の増刊号?かつ追悼号で,追悼される人のわるくちが書いてあるという珍品。よく言及されるけど現物は友人に見せて貰ったのがはじめて。ずいぶんちっちゃな本なのねー,って,彼が買う直前にわちきも見てるんだけど,なんだかわからんかった。あき×くらとはこのこと。

『少雨荘書物随筆』斎藤昌三国書刊行会

これ,まだ出てないみたい。ほんとは今年でる予定だったみたいだけど。
斎藤昌三ブーム キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!! ってことかしら…

『辞書の政治学安田敏朗平凡社

著者は若い人ですねぇ。けど,定番といわれる『國語國字問題の歴史』(平井昌夫)のリプリントにも関わっているみたい。期待できそ。

『使えるレファ本150選』日垣隆ちくま新書

あれま,ガッキイ氏が図書館or調べ物論に参入か。このまえの新潮新書『図書館を使い倒す』のように,ライターが調べ物ツールをどう使っているかがわかりそ。ちょっと暴走ぎみになりそなところが期待大。

『図書館の発見[新版]』前川恒雄・石井敦NHKブックス

じつはこれがイチバン問題なのだわさ。とゆーのも。
ここ数年,経済成長時代の図書館大躍進の,負の側面があらわになりつつあり,ちいさな図書館言説空間内で,大きな「図書館大戦争」になってきているという話はなんどなんどもしたよね。
前川御大,石井先生は,高度成長期の立役者なり。で,このNHKブックスの元版(昭和48年・1973)は,それを支えた諸文献のひとつ。
御大はここ数年,沈黙を守っていたからねぇ。
ということは,新版で書き加わった部分が,まさしく図書館大戦争の部分になる。御大がここ数年のリヤルワールドや言説空間のうごきにどのような所感を表明するか。
改革派を保守反動としてバッサリ切って捨て,「もっと貸出」派として図書館大戦争に参戦する,というのがありそうな展開。
でも,ごくわずか逆をやるのではとの憶測も。実は御大はそれをできるタヌキではとの見方も。

『図書館の政治学東條文規青弓社

天皇制と積極的にむすびついて戦前図書館は発展してきたということを主張したいらしいが…
わちきは戦前も戦後も,それぞれの体制下で適応をはかっているだけと考えているので,加藤〜東條ラインにはやっぱ便乗できませんわ。
図書館は本質的に消費経済体(non profit sector)で,サブシステムなんで,親システムの「政治的」判断によって設置・運営されるしかありません。(漫画喫茶といった簡易なものをのぞき)図書館事業はペイしないのです。
天皇=善,という政治体制なら,そのような文脈で予算要求するしかないですし,人民=善,という政治体制でも同様でしょう(たとえば「ソビエト図書館学」ってのが実際に大まじめにあったのです)。
戦前,天皇陛下が…と云った言説に乗った図書館人と,戦後,民主主義が…という言説に乗った図書館人に,そう違いはないと思いますよ。
天皇(近代日本の立憲君主制)がいいか悪いかは,それこそ図書館員風情が決められることではありません。図書館員が職域を放棄してある問題についてのデモに行こうとしたとき,それはダメ,あくまで(その問題についての)情報提供の職分をつくしてこその奉公だと説いたのが,有山タカシの「中立性」だったのだし。
〜〜〜
エヘヘ(^-^*) いま買ってきたこの本。で…
いきなり冒頭に1986(昭和61)年に東京で開かれた国際図書館連盟(IFLA;イフラとかいう)の話。開会式とレセプションに皇太子(今上)が来たことを挙げて,

本書の目的の一つは,このような日本図書館協会の活動の中身を検証することにある。なかでも戦前・戦中期,「図書館が発達しなかった」時代に,日本図書館協会を中心とする図書館関係者が「図書館充実のために」どのように国家的慶事を利用し,皇室の威光を借りたのかを主題にしている。その意味では,一九八六年(昭和六一年)の国際図書館連盟東京大会への皇太子夫妻招請は,単なる国際的儀礼を超えた次元での検討を促す一つの契機だったのである。(p.9)

いやぁ,これ知ってるよ。(当時の)事務局サイドの人から話を聞いた。大会準備だけでもテンテコマイなのに,それに皇太子来場反対のデモかけてくる連中がいて… とあきれてたよ。だけど,デモのことは,なんも書いてないねぇ。なぜ??? まさかデモのなかに居たの?
ということで,事実関係をまとめてくれるのはいいんだけど,ちっと観点がなぁ… わちきは「右であれ左であれ図書館本」なんで,まぁいいんだけど,うーん,味付けがわちき好みでないねぇ。歴史はもっとストイックに記述したほうがいいと思うのだけど。
戦前,図書館は学校教育にくらべ政府や自治体で冷遇されていたのは事実だと思うけど,経済成長期からバブル期にかけて,2度ほど優遇されようとしたその瞬間に,観念左翼的反対運動のせいでそれがダメになった,ってことも同じぐらいの重みで語られるべきだと思うよ。2回のうち1回目は区立図書館での専門職制(1960s)。これは,薬袋先生が本にまとめたね(読みづらいけど)。で,もう1回は… だれもまとめてない「図書館事業基本法」(1980s)ね。
社会主義が崩壊し,左右に言説をわけるのが無意味となって以来,わちきにとって左右対立はビザンツ帝国のキリスト単意論争(7世紀)ぐらいの意味しかないのだ。図書館の発展に役立ったのかどうかは意味あるけど。