書物蔵

古本オモシロガリズム

この期におよんでまた図書館史

五月末,大量に掘り出した弥吉光長の旧蔵本に,こんなのがあった…
『雁信』no.2-3 満洲国立中央図書館籌備処雁信編集部(1956-1990)
1956年の第2号の次が1990年ってのがすごい。初号は戦後出たものらしいけど,何時出たかは2,3号の記述からはわからんかった。最終巻も不明。NDL-OPACにもweb-catにもみあたらず。
だってこれ,引き揚げてきた満洲国立図書館員さんたちの同窓会誌なんだもの。
3号に弥吉への手紙と一緒に挟まってた会計報告によれば,

これが100部と150部とまとまればコストがぐっと安くなるのですが25部ではどうにもなりません

とあるから,ほんとに会員にしか配られなかったのだなぁ。
戦前,戦中,そして(これがめずらしいのだけど)戦争直後の満洲の図書館の話とか,戦後の彼等の経歴(図書館からすっかり足をあらったものも)。そして誰それがいつ死去したかなどのことども…
これはまた全然ちがう戦前の図書館のことだんだけど,ひそかに?わちき調べているのだ。10年前,いちどまとめようとしたんだけど,そのときは資料が決定的に少なくて。
しばらくまえ遺族に会えたら,やっぱり同じような同窓会誌を示されて,びっくり。やっぱり歴史は人なんです。
歴史はねぇ,人ですよ。リアルなヒトのおこないが歴史になる。よい所業も悪い所業もやがては歴史になるのです。あなたもわたしも歴史になるのです。そして史料が残るのだ*1
わちきにとっては,

右であれ左であれ図書館本

なのだ。
もちろん,わちきは植民地図書館人は到底,右翼だったり皇国主義者とはいえないと思ってる*2。そりは戦後の図書館人達が,一見,左翼だったり人民主義者にしか見えないとはいえ,ほんとうはといえば,実はそれほどでもないというのと同じことなのだ。

*1:そーゆー意味じゃ『遺された蔵書』の岡村敬二氏と同じだねぇ。氏は初期の著作じゃ観念左翼してたフシもあったけど,史料をおっかけるうちに非常に良い本を出すことになった… しばらくまえの学会発表じゃあ質疑応答で観念左翼だった時のことを訊かれてとまどってたというが(うわさ)。

*2:ま,岡田温は,戦後,人民主義的な図書館史研究者に持ち上げられた中田邦造を評して「あれで結構,国士だったんですよ」と言ってるけど。