書物蔵

古本オモシロガリズム

図書館資料論とエロ本

図書館学に資料論という領域がある。各種の資料群について,その効用とか問題点とかを記述する分野。愛書趣味から図書館趣味に発展したわちきは,わりと好きな領域なのだ。
土曜に行った古書現世では,こんなのを拾えて満足。
メンズ・マガジン入門 : 男性雑誌の愉しみ方 / 小鷹信光著. -- 早川書房, 1967. -- (ハヤカワ・ライブラリ)
1500円を青空古本市の一割引券で。店番のおかあさんが愛想良く売ってくれる。エロ雑誌についての資料論。さすがにいささかはずかし(^-^;)
そういえば,このまえ買った『書物語辞典』にこうあった。

エロほん(エロ本)エロチツクな本の略,すべて風俗壊乱的な本をいふ,春本淫本の意味にも使ふ。大震災後の新語である

関東大震災(1923)の後の新語とは知らなかった。勉強になるなぁ。
でもネットの普及で,エロ本という紙メディアの効用はかなり低下した。これはAVという電子パッケージメディアにもいえることだけど(AVについては,宮台シンジあたりが言及していた。彼はもっと社会関係の変化に主因を求めていた)。
わちきが危惧するのは,エロ本の効用の低下そのものじゃなくて,低下にともなう内容の変化なのだわさ。宮台言説をぱくれば,ノーマルな趣味の消費者がほか(わちきはネット説,宮台説はエッチ行為そのもの)にいってしまい,パッケージ系が妙にキンキー(きわもの?)なものばかりになってしまうという点。
これじゃあ,風俗資料としてエロ本という資料群はかなりゆがんだものになってしまう… うーむ,「内容がよくて安いエロ本(by呉智英)」を振興するにはどうしたらよいか,文字文字振興法をつくった議員先生や,自動ぽるの禁止法を作った先生にも一緒に考えてほしいが… ってムリ? (・∀・)
資料論関係じゃあほかにも最近,
タウン誌入門 / 田村紀雄編. -- 文和書房, 1979
同人雑誌入門 : 日本文学の風土記 / 森下節著. -- 仙石出版社, 1971
なんかを入手。でも司書課程の資料論だと,こーゆーのあんま勉強しないよね。ってゆーのも,図書館にもともとあんま入らない資料群だから(^-^*)
同人誌ってーと,(エロ)漫画同人誌ばっかになっちゃったけど,文字文字系の同人誌ってのが戦前からの伝統であったんだすね。

図書館資料論の陥穽

というように,司書課程の資料論じゃあ図書館に入るような資料群にのみ言及がとどまるのがダメダメ。もちろん,ある資料群を「選ばない」という選書行為によって,結果として上記のエロ本,タウン誌,同人誌が入らないのならぜんぜんかまわないし,それはよいことだとさえ思う。
けど,大図書館では過度の分業によって,小図書館では取次会社への過度の依存によって,図書館員のみえないところで「すでに選ばれた」枠のなかから選書して「選んだつもり」になってるのは,なんともみっともない。
もちろん「ルーティンワークでいそがしいからそれでいいんだ」というのもアリなんだけど,せめて司書課程の資料論なら,なるべく「資料」の間口を広くとって,それらから「選ばれなかった」ものの残りが本当に「選ばれた」ものとして図書館に収蔵されるんだ,っちゅーことは教えておくべき。