書物蔵

古本オモシロガリズム

正本の末路

列挙書誌学に染め上げられちまった図書館情報学系の連中には、「正本も複本もない」とか「複本記号なんてなくていい」とか、まるで本屋さんみたいなアタマになっちまってる奴もおるけれど、分析書誌学的には、受入印とか登録印とか、日付印やら奥付やら書き込みやらが極めて重要なわけで。
複製芸術時代がいちだんと加速したこの平成の御世にあって、本なんちゅー前世紀の遺物なんぞでショーバイしようだなんて、いまだ「図書館」なんちゅう看板をはずさずにいる太い会社にゃあ、これから分析書誌学的なアプローチも必要なんじゃござんせんか、と言ってみるテスト。
いや、戦前本の「発掘」のことを言っているのです。

正本のありか

はてぶ経由で内務省納本について、めずらしい記事2つ。
終戦直後まで内務省がやってた検閲。そのために出版社が納めた「納本」の正本が千代田図書館で「発掘」されたというもの。ネット上では、読売と東京新聞の2つ。
ようするに、千代田図書館で、残っていた検閲本の企画展(小展示?)をやるということらしいのだが。。。

戦前の検閲本2200冊 東京23区 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/news/20080123-OYT8T00092.htm

企画展は3月19日まで。「今に遺(のこ)る検閲の痕跡」と題し、10冊ほどが展示

〔本の扉や見返しなどには〕メモのような意見の記述も散見され、識者は「検閲の様子を現代に浮かび上がらせる貴重な資料」と指摘している

拙ブログの古くからの読者ならば、知っておることですよね。(■『書斎管見』は「差し支えなし」http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20060203/p2

〔検閲作業後〕「出版に問題なし」と判断された本は、1937年から現在の千代田、深川、京橋の3図書館に次々に寄託された。表紙の裏に検閲官や内務省図書課長らの印が押されている。その後は、一般の蔵書と同じ扱いだったと見られ、千代田図書館では他の本と区別せずに閲覧・貸し出しされていた。昨年2月から調査したところ、医学書や伝記本を中心に約2200冊あることが判明した。京橋図書館にも約2400冊あることが分かっている。一方、深川はまだ調査が緒についていない。

おや、かのビジネス支援発祥の地、京橋図書館や、わちきも行った深川図書館のことが検閲本がらみで活字になるのははじめてじゃないかいな。
毎日のほうでは、

検閲された本は、昭和初期に、まとまった形で東京市立の駿河台、京橋、深川の三図書館に寄贈された。
 だが、千代田図書館では古参職員も「聞いたことがなかった」とし、単なる戦前・戦中の書籍として扱われ、一般貸し出しも行われていた。近年、再製本して表紙を補強した際に、見返しにあった検閲印や貴重な記述が切り取られてしまったものもあったという。(東京新聞:検閲の実務明らかに 戦前・戦中の寄贈本“発掘”:社会(TOKYO Web)(http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008012302081629.html

いやまあ、この部分の後半、まったくこの事実を知ったときには、卒倒しそうになったよ。

近年、再製本して表紙を補強した際に、見返しにあった検閲印や貴重な記述が切り取られてしまったものもあったという。

コキタナかった(にちがいない)装丁などぜんぶひっぺがかし、きちんと(下品、かつツマラナく)再製本された本がならんでるのを見たときには!
へなへなとくずおれそうに。
これじゃあ、正職員の直営時代は暗黒時代ということになっちゃいますがな。
わちきは悪辣なる直営論者なれど、こと千代田の事例でいえば、やっぱり指定管理者になったがゆえに、今回のような「“発掘”」もあったのだなぁ、と思わざるをえないのぅ
製本予算をきちんと取って(=税金を蕩尽して)まで、(形式的に)正しい資料管理にあけくれ(=史料破壊)、それが史料になりえるということにも気づかず、埋もれさせてきたのが23区の直営館だったわけで。
どーしてこれが、図書館経営史上の汚点、日本資料保存史の失敗として専門誌の記事にならんのかのぅ。
いや、専門職種制(=司書職制)が23区に敷かれなかったから、直営時代の千代田みたいになっちゃったのだ、と言われれば、そりゃぁそうかもしれんけど、23区への司書職制導入をつぶしちゃったのは、実は図書館運動家たちだよ、と明らかにしちゃったのが薬袋先生の本(2001)なわけで。「身から出た錆」なのだなぁ。

ん? あと1館は?

ああ、そうそう。東京市立図書館(群)には四大図書館というグルーピングがあったわけだけど、千代田・京橋・深川じゃあ3つにしかなんないよね。のこる日比谷がB29によって焼かれたことはみんな知っていることだけれども、その意味については、実はあまり論じられていない。それについて、名古屋市の図書館本を買って思いついたことがあるんで、そのうち書くですよ。