書物蔵

古本オモシロガリズム

給湯室の思い出

 私自身はそこに関する思い出はない。しかし、他人がそこを使っていた思い出はある。
 まず更衣室として。参考課には図書閲覧課とちがって完全に仕切られた男女別のロッカーコーナーがなかったのだろう、昼にテニスをやる男性がそこで着替えていたという話を聞いたことがある。給湯室にはもともと鉄製の頑丈な扉が設置されており――これが職員スペースのものに限り撤去されたのは2011年前後だった気がする――その扉はつねに木製の手製楔であけられていたが、閉めれば個室化できた。T、Nらがテニス用の運動着に着替えるのに使っていたのだろう。
 友人が給湯室で泣かれた話も聞いたことがある。事務部局は司書部局とことなり係の定員が2,3人の少人数だから、係長がオタクで無茶な人だと終業時間間際から「会議」を始めたり、無定量の奉仕を係員に無言の前提としたりしやすい。それに抗しきれなかった女性若手職員に隣の係だった友人が給湯室で泣かれたとか。
 彼はなんやかんやいってよい同僚乃至上司なので、心理的手当をし、となりの係にか上司にかしかるべき対処をしたのだろう。むかし、OLが組織内のウワサを交換したり、セクハラ上司の情報を共有したりした機能が部分的にわが社の給湯室にもあった、ということがわかり、得心したことだった。