書物蔵

古本オモシロガリズム

曽根博義先生の提唱した「ガツゴウ」概念が手がかりとなる:巻号の問題

もり・やうすけ氏の手引きで曽根博義先生の知遇を得てから、ちらりほらりと曽根先生の書いたものを(古通も含め)読む機会が。このまへ読んだ『文藝時評大系』の昭和篇索引にある解説は、文芸時評なるものの概説として(明治、大正篇にくらべ)たいそうわかりやすく全体が書かれているものであったが、そこで引かれていた次の2点を読み、さらにまた蒙を啓かれる思いがしたことであった。

  • 曽根博義「雑誌の発売日」『国文学:解釈と教材の研究』33(7)p166-169(1988.6)
  • 曽根博義 その後に1つ

むかしからみんなが疑問に思いながらも、てきとーにうっちゃらかしておいた普遍的問題の、手がかりがすでに昭和63年に曽根先生により解かれ始めていたということがわかった。さらにびっくりなのは、かきかけ

概念整理

次のように整理できよう。

  • 号数表示:何年何月号、何年何月何日号、といった巻号として機能する表示。
  • 発行日:法令上の発売日。書店で売れるように法令上なる日。
  • 発売日:実際の発売日。実際に書店で買えるようになった日。
事例

巻号:大正15年1月号 発行:1/1 発売:前年12/29
巻号:昭和15年5月号 発行:- 発売:4/13
巻号:昭和21年4月号 発行:- 発売:5/3

「月号」という概念

曽根先生のオモシロきところは、じつは新概念を提唱しちゃってるとこ。
それが「ガツゴウ」なる概念。
これが概念として立つ、ないし立って有益な由縁ハ。
通号でも、巻・号でもないシリアルの概念が特に日本の非学術雑誌(一般雑誌、業界誌などで)成り立ちますよ、という点である。
あるのに概念がないので、見えないようになっていたのが「月号」である。

通号 例)400号
巻号 例)1巻4号
年月号 例)昭和13年4月号
増刊 例)増刊第2号 
固有名 例)野依社長出獄記念新活動号

もちろん、かうして事例を一覧すれば、増刊号や固有名号も別にたててよさそうなわけであるが、増刊は図書館界では単行書に回収される(ってかどっちにも回収されず未収集になる)し、固有名は、「特集名」といったものに回収されていく(これの採録は都立OPACが熱心だった)。
曽根先生提唱のガツゴウは、基本月刊誌だった戦前から昭和30年代までの雑誌についてうまくはまる(もちろん週刊誌時代も「月日号」といってもよい)。西欧学術誌流の、巻・号でもなく、法定発行日(≒実際発売日)でもない新概念であるところがミソ。大抵、発行日と混同して理解しようとして失敗する、というのがパターンだったように思う。

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