書物蔵

古本オモシロガリズム

利根川樹美子『大学図書館専門職員の歴史』について

せうがないので利根川著を瞥見。
うーん。これは読みづらい。博論をそのまま本にしたやうに感じられてしまふ。って具体的に読みにくさを指摘すると、

  • 同じことをまとめと称していろんな場所でくりかへすのは図書としてはやめたほうがよい。--あと、出てくる団体やその下位組織の正式名称をくりかへすのも図書としては煩雑きはまりない。初出時にちゃんと同定可能な略称を設定すればいいのに。
  • さらに肝心なところで論拠が薄弱だったり論理が飛んでいる部分があるので、こりゃ困る。たとへば…

貸出中心主義にもとづく〔図書館員の問題〕調査研究委員会が“専門職としての司書職の確立論議で取った立場・基本的考え方は、労働問題の解決手段としての専門職論であった。(p.85)

とあるが、これは、論理としては間違いだと思う。
といふのも、JLA館員問題委員会――略称といふのは、かういった形で略すが吉。「調査研究委員会」が略称では、せっかくの固有名の固有性が薄くなっちゃふでしょ――が

「専門職制度は待遇改善の手段ではないが、専門性の堅持が条件改善の一つのより所となる」

と、「専門職制度は待遇改善の手段ではない」と言明してゐるわけだから、館員問題委は、いちおう、待遇改善は副次的なものと見なしているとしか解釈でけんでしょ。
それを、委員会がとった「基本的考え方」が労働条件との連動だ、と書いちゃふのは、論理としては飛んでる(もし、当時の委員が生きてたら怒るとおもふ)。
もちろん、館員問題委が貸出中心主義を所与のものとしてゐたから、結果として労働運動的な提言になってしまったといふのなら成り立つし、どうも利根川はさう言ひたいらしい。
しかし、その理路がわからない。
委員会が貸出主義にのっちまってる、という指摘も、ちょっと弱いし、なにより、貸出主義だとどうして労働問題に連動しちゃふのか、理路が示されてない。

かういふ論理かな?

そこで、結論としては賛成するわちきが、理路としてはかう立てられるんでは、と別の解法を示してみむ。

館員・館職員には守衛・営繕だけでなく、貸出し作業しかできない非熟練労働者(出納手もどき)が多く含まれ、それらは司書の専門職種制を作る際には切り離すしかないと委員会には分ってゐた。
けれど、とりあへず非熟練も含めた既存の待遇を堅持するところから専門職種制を始めたいといひ、直接、専門職種をたてるための職務分析――それは職場の分断を必然的にもたらす――を避けた。
委員が非熟練にそこまで配慮せねばならなったのは、当時インテリに一般的だった左翼主義だけでなく、貸出を中心に業務改善を図るてふJLAの戦略が影響してゐたと考えるのが妥当だろう。
つまり、貸出しといふ物理的作業を業務の中心にすえれば、非熟練労働者を切るなどといふ戦術もとれなくなってしまふ、というワケである。

もちろん、JLA職員問題委の報告書を読んでみないと、ちゃんとはいへないんだけどね。ってか、わちきのコレクション内にこの報告書、ないんよ。