書物蔵

古本オモシロガリズム

野口茂樹による『通俗文具発達史』(昭和9年)

月曜に神保町へコミケ・カタログを買いに行ったをり、ふと立ち寄りたる八木書店卸部の出入り口。というのはここに復刻や資料ものの内容見本が多品種おいてあり、おそらく歴史学や各学問学説史などに興味あるむきには非常に勉強になるコーナーであるからぢゃが。
そこで拾ふた大空社「こと典百科叢書」の内容見本に、これは、と思ふやうな書目が挙がってをった。
「こと典百科叢書」の第2巻(2010.6)が次の本の復刻であったといふ。

  • 通俗文具発達史 / 野口茂樹 著. -- 紙工界社, 1934. -- 211, 101p ; 23cm.

ハテ、文房具の歴史とな。わちきの既存知識では、日本における西洋文具の歴史につき、端著を一度さがしたれど、見当たらんかったが。。。
とて、別のをり、その本を閲してみたれバ、なんと! 結構、まさしく

日本における西洋文具の歴史

が載ってをる好著。
著者が自序にいふやう、

然るに従来文房具の歴史を記述せる著書存せず 如何に切望するも究明の方途なく遺憾不尠〔すくなからず〕、予 多年斯業の一員としてその末尾に在り 該書の出現を望むや寔〔まこと〕に切にして〜(p.5)

なるへそ、1934年の段階で、著者、野口茂樹の調べでは、先行文献(単行)は見当たらなかったのね。

恰も本年 昭和九年は 予が主宰する機関誌「紙工と文具」の創刊十周年に相当するを以て 聊か之を記念し 併せて過去業界より享けたる宏恩の万一に報ゆるべく茲に愈々意を固うし本書編纂に就いて発表せしは本年一月であった。(p.6)

ほほぅ、この野口茂樹なる人は紙工界社で『紙工と文具』を出していた人なるか。いまOPACると、戦後は大阪市でビジネス出版社という会社をやっとるね。しかしこの業界誌――ご本人は「機関誌」という語をつかっとるのもむべなるかなで、というのも、当時、「業界誌」なる表現はほとんどなかったはずなので――み

〜しかも既往の参考文献に乏しく、やむを得ず口説を採るも百人百様、従って紛々たる諸説を捃摭〔くんせき〕して以て記録せるものなれば或は意外の誤伝有るやも測られず、唯冀ふところは真摯なる読者の忌憚なき批判と〜(p.7)

ははぁ、とて中を見るに、東洋起源の筆墨や硯だけでなく、ちゃんと西洋文具の、それも日本における濫觴に最低限の記述がある。

目次を再配列して分類
【東洋のもの】筆 紙 墨 方、簡、聿、帛 硯 算盤 印章及び朱肉
【西洋のもの】鉛筆及びシャープペンシル インキ ペン先 万年筆 タイプライター 製図器 絵具 白墨 字消護謨 封筒、便箋及びノート 帳簿及び手帳 複写紙 学生鞄及び紙挟 卓上糊
【おまけ】特許に現れた文房具 ※「見台」特許番号などが記載されとる。no.433;M21.2.3, no.484;M21.5.22, no.615;m22.2.18 no.2575;M28.7.4とか

さらにおまけ2として、「推獎優良商品・模範問屋索引(イロハ順)」なるものが付いていて、たとへば、コクヨの広告にはバインダー、スクラップ/ブックなどの品目が挙がっている。
アルバムなんかを製造しとるとこもあがってをるが、オモシロなのは、

ルーズリーフ式帳簿と手帳/製造販売元/特許帳簿製作所

の広告。ルーズリーフ現物の写真が載っていて、ははぁなるほど、と形態がよくわかる。以前、日本における(西洋式)カードの歴史をUPした際、「ルーズリーフ」についてもやらねばの、と思ふてをったのぢゃが、やはり文房具の製造販売史のほうからいけるのではないかと思ふた次第ぢゃ。
しかし、なしてかやうなる本に気付かんかったんぢゃらう、と思ふに、件名「文房具--歴史」にて、次のものをバ発見した。

請求記号 PS41-J11
タイトル 文具に就いて.
タイトルよみ ブング ニ ツイテ.
出版事項 東京 : 伊東屋, 1933.6.
形態/付属資料 56p ; 19cm.
内容細目 硯筆腕枕考紙硯墨等に就て / 後藤朝太郎 著. 尖筆、ペン、鉛筆の話 / 今澤慈海 著. 藏書票の話 / 今澤慈海 著. 紙の話 / 今澤慈海 著. 封筒の起源 / 樋畑雪湖 著. 暖簾からネオンサイン迄 / 倉本長治 著. 算盤の歴史 / 淺野商店調査部 著. 印章の沿革 / 文明堂 著. 鉛筆の起りと其發達 / 市川商店 著. インキの歴史. 萬年筆の歴史. 筆の今昔漫談. タイプライターの起源. 事務用紙の規格寸法に就て. 伊東屋の沿革.

請求記号の前後のものから類推せるに、こっちの昭和8年の本、どうやら2008年の7,8月ごろに整理されてその1,2ヶ月後にデータが公開されたものらしい。
ははぁ、なるへそ。こはすなはち、国会の件名付与が中途半端なところに由来せる検索モレならむ(゜〜゜ )

同日追記

要するに、戦前の整理本(帝国図書館本)には件名が全然付与されとらんといふことと、戦後のものでもsubdivision(細目;ここでは「--歴史」)が付与されんことがあるといふことね。うかうかしとると見つかるもんも見つからんといふことぢゃな(σ・∀・)σ
さうかうしとるうち森さんによるコメントがついた本はたしかに国会さんにあるが、歴史の本であるにもかかわらず「--歴史」なる一般細目(どのような主標目であらうとも、付加できる/本の主題が該当すれば付加すべき)をつけとらんことがあるってことだぁね。なればこその検索モレ。こりゃあ、せっかくの件名検索をする際には用心せねばらなんことですよ。