書物蔵

古本オモシロガリズム

佐藤卓己『天下無敵のメディア人間』を方法論的に読み解く!(下):ホットパート集から輯逸!


承前

どこまで話したんだっけ。。。
そうそう、この本の主題は野依秀市伝だが、野依は一般人から完全に忘れられていたこと。ただ、一部の読書人には注目されて先行文献があること(一番くわしいのは、梅原正紀――かの北明の息子だよ――)。伝記でもあるけれど、群小新聞社史――とゆーか、イエロージャーリズム史――でもあること。その小新聞を現在、閲覧するにはどーすればいいのかということだったように思う。
http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20120525/p2
で、頼りになってた新聞総目がずいぶんダメなものになっちゃって、しょうがないが、それはともかく戦前の『帝都日日』はどうやら昭和8年のものが明治新聞雑誌文庫に残ってるほかは、ろくに残ってないということがわかった*1
しかるに、佐藤先生の野依伝は、昭和8年をすぎてもズンズン進み、どんどん『帝都日日』の本文を引用しまくっておる。佐藤先生は魔法使いか?!(((( ;゚д゚)))アワワワワ
なーんちて(σ;^〜^)
いや、佐藤先生、これはスゴイ手法を実用にしたというべきでしょうヾ(*´∀`*)ノ゛キャッキャ
実は手法自体はわちきも気づいておったのだが、いったいそれを何のために用いればいいのか、わからんかったのだ。これはちょうど、蒸気機関の原理は気づいておったが、それをクルマに用いればいいと気付かんかった図式に似ているね(^-^;)

官製ホットパート集を用いた佐藤先生!

昨年からマイブームとなりつつある出版法制史――ん?(・ω・。) 浅岡邦雄先生の影響か(^-^;)――、この基礎資料に、内務省の内部出版物『出版警察報』(まぁ月報だね)や、年報にあたる『出版警察資料』がある。とくに月報のほうが個別のタイトルに詳しくて。月ごとの出版警察の業務報告・統計なども載っているが、個別に禁止した本について、書誌および抵触部分の抜き書きがあるのだ。
で、パラパラ見ると、抜き書き部分は要するに、エロ本の一番エロい部分ばかりを集めたものに(結果として)なっている。書誌鳥さんのいう「ホット・パート集」だ(もちろん現物ハ、かやうなる項目名ではなく、「禁止要項」といふ)。

「スースー、ハーハー」*2ってか(^-^;)
もはや現在の我々(とはいっても我々の半分だが)には実用性を感じられないので、「こんなん読まされても、いったいどーやって(資料として)使えばいいのだろー?ハテナ」と疑問々々であったのぢゃ。
ところがぎっちょん、

佐藤先生はまさしくこのホット・パート集を用いることによって、本書を執筆できたのぢゃー!`・ω・´)oシャキーン

ん?(・ω・。) 何いっとるかわからんってか(^-^;)
新聞紙法や出版法で禁止になるものは、エロ(風俗壊乱に係る禁止)だけでない。もひとつ、「安寧秩序紊乱」でもひっかかる。
そう。この安寧禁止に結構、野依の『帝都日日』が挙げられていて、佐藤先生はこの『出版警察報』ホットパート集を通覧することで、この世から消えうせた(ている?)『帝都日日』を参照したのぢゃ!

近代書誌学の「輯逸」:新聞・雑誌研究方法として

この手法の優れているところは。
膨大な新聞記事から、特に政治的に問題になったものだけ、すでに選ばれている(つまり、70年前の内務官僚に佐藤先生は自分の下読みをさせたのぢゃ( °∀°)・∵ なんとゆー魔法つかい(≧∇≦)ノ)。
逸書となった出版物の本文がよめる。
ということでもある。
特に後者は支那目録学でいう「輯逸」という手法なわけだわさ。しゅういつ、っちゅーのは、失われた本の本文を、他の本に引用された部分をかきあつめて復元(もちろん全部はむり)するという手法。
で、これは重要なことだけれど、この手法は十分一般性を持つ、つまり、『帝都日日』以外でも、使える手法であるということ。以前、個別タイトルの研究書はけっこう出るのに、雑誌研究一般論がないと大澤聡さんが昭和文学研究に問題提起しとったけど、佐藤著にもまったくすっぽり当てはまって。佐藤先生はブルドーザーのように(某氏表現)、方法論などなくとも、グワーッと馬力で(粗々だけど)できちゃうんだわさ。
わちきはホットパート集をそのまま使おうとして、無意識的に、

ホットパート=エロ!(゚∀゚ )
→エロ本のホットパート集など城市郎の昭和30年代ならいざしらず*3、平成の御代には全然エロくないぢゃん(σ・∀・)σ
→使えぬ(-_ - ;

と思っちゃったんだけど、やはり、使い方というのも、発明のひとつなんだねぇ(*゜-゜) わちきがフィロン*4で、佐藤先生がスチーブンソン*5ね(σ^〜^)
もちろん欠点もあって、採録されとるのは発禁号の発禁部分だけだから、それ以外の記事はぜんぜん読めんということになる。まぁ、こりゃあ輯逸だからあたりまえか。ただ、今回の『帝都日日』に関しては、三宅雪嶺のコラムなども使うとよいだろうとか(とこれも書誌鳥による)。

帝都日日新聞の創刊から十年間、隔日に「帝都の一隅から」と題して感想を記載し、それを毎年一書に纏め「初台雑記*6」、「二日一言*7」、「隔日随想*8」、「一地点より*9」、「面白くならう*10」、「戦争と生活*11」、「事変最中*12」、「爆裂の前*13」、「爆裂して*14」と題し、今や「激動の中*15」として第十一年に入る。

  • 三宅雪嶺 著. 激動の中. 秀文閣書房, 昭和19. 412p ; 序より

しかしこうした雑書にかぎって意外と図書館には残っておらんね。こりゃあ通覧はむずいか。ん?(・ω・。) 三宅雪嶺の評論集を雑書とはなにごとか、ってか(  ̄▽ ̄)

秘密兵器で10倍ラクに10倍精確

いまブルドーザーのような、とある人の表現をかりて佐藤先生の手法を表現したけれど、いやサ、実際、ブルドーザーみたいだから、あの山のような『出版警察報』を通覧できるわけで。
フツーの人はできないし、実際、できたとしても結構モレがでる。実際、佐藤先生は『帝都日日』の部数について述べておられるが、けっこうモレがあるようだ、って、なんでわちきわかるんだろう。
ここだけの秘密ぢゃぞ(σ^〜^)
ちやうど佐藤先生が執筆にいそしんでいたころ、かの金沢文圃閣が悪の帝国図書館員と組んで秘密兵器を開発しておったらすぃー。それをバ先日、秘密裡に入手したのぢゃ
これぢゃ(。・_・。)ノ

  • 雑誌新聞発行部数事典 : 昭和戦前期 : 附. 発禁本部数総覧 / 小林昌樹編・解説. -- 金沢文圃閣, 2011. -- (文圃文献類従 ; 24)

なんとこれが知的ブルドーザーの代わりになるのぢゃ。まずもって佐藤先生が参照した『帝国日日』のホットパートが「肝心の『出版警察報』何年何月号に載っていそうか」なのかぢゃが、どの新聞・雑誌がいつ発禁になったのかを調べるツールが、実ハいままでなかった。福岡井吉(筆名フクオカ・イキチ)が作った『昭和書籍雑誌新聞発禁年表』(明治文献,1981)があるのぢゃが、あれ、索引がないのが致命的。タイトルから引けん!
ところが秘密兵器をつかうと、実は一部、わかってしまふのぢゃ♪ (">ω<)っ))

本文がタイトル順→〔て〕の帝都日日新聞(p.175-178)ンとこを見る→巻号や年月日号だけでなく、処分年月日がわかる

処分年月日がわかればこっちのもんで、たとえば福岡の発禁年表で、その理由や書誌がわかるし、なにより、『出版警察報』の当該年月号を通覧すれば、年表よりもっとくわしい情報が(引用含めて)わかるというわけ。

ついでに

昭和8年創刊の帝都日日は、昭和13年に部数をがっくり減らしたことがあったけれど、昭和15年ごろまで9千部から1万4千部の間であった。『部数事典』では昭和16年9月から数百部にがっくり減っちゃうのが不思議だったのだが、これは逆に佐藤先生の本に、紙の配給を止められちゃったからだと、きちんと理由が書かれている。んでも昭和17年1月からは三千部ぐらいに持ち直してるのがわかるねぇ(´∀` )
野依のことを盛んに攻撃した『夕刊帝国』は3200部から2000部の間であることがわかる。

野依メディア
帝都日日 vs. 夕刊帝国
10000部 3000部

であったわけである。もちろん、

野依メディア
実業之日本 vs. 実業之世界
60000部 6000部

でもあったわけだが(σ^〜^)σ

追記

書評一覧はつぎへ移植して拡張ぢゃ(ノ`∀´)ノ ⌒ .、●~
http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20120626/p1

*1:新聞資料館には戦前分の所蔵リストがない。。。(-_ - ; 

*2:エロ本をむかし「スーハーもの」とかいったはず。戦前、エロ本を読んで興奮するさまを、スーハーとか言ったことからついたのだろう。でも、ここ20年ぐらいネットでは同じ意味で「ハァハァ」って表現するねぇ。スーハーのほうがテンポがゆっくりだし、ハァハァだと単に疲れているかのようにも見えるから、スーハーのほうがよい? まあ、ここいらも書誌鳥さんの示唆によって書くんだけどね。

*3:って、このたとえも書誌鳥さん製。

*4:古代ギリシャ人哲学者。蒸気で物を動かせることに気付く。

*5:蒸気機関車を発明。

*6:ショタイザッキ。1936.11。

*7:1935.12。国会なし

*8:1934.12。

*9:1933.9。なし

*10:1938.2。

*11:1938.10。国会なし

*12:1939.10。

*13:1942。

*14:1942.10。

*15:1944.5。