書物蔵

古本オモシロガリズム

かきかけ 出版警察(=出版物取締)に、どのやうな「処分」がありえるのだらう(。´・ω・)?

1945年の9月だったかに効力を失ふまで出版法その他の検閲法規は議会で制定された立派な法律として効力があったのぢゃった。その正統なる法律にもとづいて合法的にお役人はギョームを行ふ。もちろん検閲も。
ぢゃ、その合法的な検閲およびそれに伴ふ「行政処分」(じつはこれとは別に同じ法規に基づく「司法処分」というのもありえた。ちやうど現在でいふ交通違反点数制度行政処分で、裁判に起訴されるのが司法処分)にはどんなものがありえたのか、その一覧って意外とないんよ。

イチバン大きな理由は… 明治の法律で大正昭和の出版文化を統制しやうとしたから

明治廿何年だかの出版法と明治40何年だかの新聞紙法。この2法をもって、文運盛んとなった大正、昭和の出版物を統制しやうだなんてことをやるから、どんどこどんどこ、現場の官僚が出版警察事務用語を造ったり*1、あるいはまた法定外の制度を創ったりしてぎょーむをこなすことになったのが、そもそもの原因。
内閲とか削除処分なんちゅーのもさうである。実務者はその時々で五月雨式にいろいろやる。その全体が合理的に説明できるかなんてーことは、基本的にはあまり考へない。しかし、これらの行政行為を受容する側、それは出版社だったりジャーナリストだったり、あるいは古本マニアかもしれぬ、にとっては、なんらかの名づけをしたくなるといふもの。あへていへば、講学的概念を、当時もつくってしまうといふ図式になっていた。

昭和7年の斎藤による明治大正期についての整理

そんで、少雨荘こと斎藤昌三さんが――ん?(・ω・。) まあ稲てっちゃんを通じて、わちきも愛書趣味上の孫弟子てふことにしてをいてくれんかの(* ̄ー ̄)>――持ち出してくる概念が、

筆禍

  • 現代筆禍文献大年表 / 斉藤昌三 粹古堂書房、 昭7、 1冊

これが、明治大正期の発禁本の網羅的リストであることは、古本者なら知らぬものはをらんであらうm9(・∀・)
んで、この筆禍文献大年表のまえがきを読むと、「筆禍」という概念の下で、各種の処分がつぎのように類型化されているが。。。

発売頒布の禁止*2 発行禁止*3 発行停止*4 便宜削除*5 注意*6 委任命令*7

これが昭和7年の少雨荘による整理だが、内閲(大正期?〜昭和2年)やら分割還付(昭和2年から)やらが抜けとるね。けど、内閲は処分とはいひがたいし、明治大正の総覧に、分割還付といった昭和期のコトバはむしろ不要なわけで、逆に昌三がきちんと概念整理できていたといふことにならんかの。ん?(・ω・。) 実際に作業したのは大信田落花ぢゃないのかってか(^-^;)

昭和40年の福岡による昭和前期についての整理

福岡イキチ(正体不明)によって昭和40年6月に書かれたつぎの短文は、研究的なものの初期の記述だらうが、御本人が「この小文は本年表作成の倉卒〔そうそつ:あわただしいさま〕の間に集めたメモを綴り合せたにすぎない」と書くだけあって、なんともとりとめない。

  • 福岡井吉「昭和期「発禁」の概要」『昭和書籍雑誌新聞発禁年表 上』小田切秀雄,福岡井吉 編著. 増補版. 明治文献資料刊行会, 1981.5. p.6-19

削除処分、分割還付などといった各種処分がとりめもなく挙げられている(゜〜゜ )
「さらに好学の人の本格的研究を待ちたい」と1965年4月に福岡さん(ペンネーム)は続けて書いてをるが、結局、2010年代まで「本格的研究」は始まらなかったといふわけですなぁ… この仮称福岡イキチさん、もう生きてはをらんだらうなぁ… しかしイキチって、ほんたうに憲政史料室員の匿名なのだらうか… 稲てっちゃんは知らんといふてをったが…

昭和初年のオサダケタケキによる整理

ここでチトオモシロいのは、かの尾佐竹猛が発禁史をまとめた際に、その前座でサラッと概念整理をやりかけとること。

  • 尾佐竹猛「日本圖書雜誌發禁史」『綜合ヂャーナリズム講座 XI』 内外社 1931

発禁といふのは近頃できた熟語で、勿論、発売禁止の略語ではあるが、この外に発行禁止又は発行停止がある。

へぇ、昭和初期の熟語だったとはとは。たしかにニッコク昭和7年の用例を引いているねぇ。

はっ‐きん 【発禁】 〔名〕(「はつきん」とも)
「はつばいきんし(発売禁止)」の略。
*途上〔1932〕〈嘉村礒多〉「発禁の理由は風俗紊乱のかどであることを告げて」
日本国語大辞典より

オサダケは法律家なので、新聞紙法による雑誌は、新聞のほうの議論やればよいから、残りは出版法による雑誌と図書だけになり、つまらなくなっちゃうとする。

雑誌の発禁、図書の発禁は、〔新聞に比べ〕寧ろ副産物ともいふべきものであるから、一括して叙述するのが相当で、既に「筆禍史」とか〜

さらにこんなこともいう。

それからまた、初めのうちから、秘密出版であるものが、官憲に発覚したときの如きは、これも厳密なる発禁ではなくて、初めからの法禁であるのである。

と「法禁」なる前近代からの漢語を用いて、「発売頒布の禁止」は、数ある処分のひとつであることを示唆している。
オサダケはここで何をしているか。発禁の概念整理をしている。和知気流にいひかえるとかうなる。
「はつきん」なる熟語は、図書と一部雑誌についての処分たる「発売頒布禁止」の略語であるが、ほんらい「はつきん」の処分などが緒手から不能な秘密出版が発覚した場合にも使われるようになっとるよ。けど、発行禁止や発行停止が大問題だった新聞、雑誌のほうが

かきかけ

*1:林昌樹「戦前期全出版物の形態別分類表(試案)」『『文献継承 第19号』

*2:その号、その冊子は売りさばきも、タダで配ることももしてはならない

*3:その雑誌新聞自体を未来永劫、出してはならない

*4:その雑誌新聞は一定期間、新号を出せない

*5:削除処分のこと?

*6:次版改訂とかか?

*7:風俗壊乱ものだけ、地方庁独自の判断で発売頒布禁止、差し押さえできる