書物蔵

古本オモシロガリズム

「品のいい保守」の運動

出版ニュース』2006年10月中旬号に津野海太郎氏の、NPO共同保存図書館への応援記事が。
(県立も含め)公共図書館からぞくぞく本が廃棄されるなか、NPOにってデポジット・ライブラリー(共同保存図書館)が多摩地区に創られた。氏はこれを応援しているのだが、その中で、津野氏なりの図書館感のまとめが述べられている。
前川氏を中心とした市民図書館運動はよかった、気軽に本を借りれるようにした(要旨)と「いま、私は感謝をこめておもう。」と素直に評価したうえで、「しかし、あれからもう四十年ちかい時間がたっている」
ため2つのことを織り込んでいくべきという。
ひとつは図書館界内部での話。
「貸出し重視原則のせいで、前川氏たちの意図をこえて「保存」という語がカッコウわるくひびくようになってしまった」
それから(これは館界にかぎらず)一般に(出版界も行政も)、
「ストックからフローへ」
つまり、効率性を重視するあまり、現在ただいまの資料・情報の流れだけしか気にかけなくなってしまったという。
かといって、廃棄「反対運動」は、正しいが脆弱な運動だから、NPOの出番なのだという。

「品のいい保守」の運動

をすべきだという。
なかなかうまい表現ですなぁ。
日本の場合、deposit library は、いくつか事例があったけど「成功した」という報告を聞かない。
ちなみに、直接役にはたたないと思うけど、過去の、デポジットライブラリーに関する言説は、
内外の保存図書館の動向とわが国における論調--文献紹介 / 井手 隆英
図書館研究シリーズ. (通号 32) [1995.03]
がいちばん網羅的だった憶えが。

翌日追記

大昔から何度となく唱えられては一度も「成功」事例を聞かない共同保管。
今回はコンセプトレベルで,わちきから見たらおかしな論争があったという。それは。
名前,正確には deposit library の訳語をどうするかということ。

  1. デポジット・ライブラリー
  2. 共同利用図書館
  3. 共同保存図書館

の3つが案としてあったんだって(×o×)
津野さんは「品のいい保守」というスタンスで,ホコリをかぶった「保存」という語のホコリを払えばよいと思ったのでしょう,「共同保存」を推したというけど…
この「共同利用図書館」ってなによ。わちきがいちばん嫌いな「言い換え」ね。おそらく提唱者達は進歩的なつもりなんだろーけど,これって,全滅を「玉砕」に,戦死を「散華」,退却を「転進」に言い換えるスタンスとまったく同じ。
本質的に利用と保存は矛盾し,それをどう両立させるかが司書の腕の見せ所であるはず,というのは,「珍説・資料保存」http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20051008/p3に書いたんだけどなー。
ほんと,「品のいい保守」な人がつかんとどこいっちゃうかわからんですよ。