書物蔵

古本オモシロガリズム

11月1日から始まった?

出版史の基本ツールたる『出版年鑑』。
じつは図書館のこともわりと細かくのっていたりもする。
昭和5年版(中身は昭和4年の出来事)にこんな記事が。

京橋図書館竣成
 東京市の図書館事業の一つとして兼ねて築地一丁目に改築中であつた東京市立協橋図書館は漸く竣工、十一月一日より開館した。同図書館には四階建近世式の防火建築、最新式の設計になるもので、すべて利用者本位に出来ているが、特色は次の如き点である。
一、書庫を公開したこと。即ち書架を放射状式に排列して閲覧者が自由に希望する書籍を探し得ること。
一、一階地階を全部下足のまゝ出入り得るようにしたこと。
一、実業図書室を設けたこと。即ち京橋区は商工業者が多いからである。
一、日光消毒室を特設したこと。
(『出版年鑑(昭和5年)』「出版界一年史(昭和四年)」p.38より)

注釈

「近世式」というのは今でいう現代的ぐらいの意味でせう。
「書庫の公開」は専門語でいう「安全開架(safe-guarded open shelves)」のこと。出入り口に司書がいて、入庫・出庫の手続きが要る。書架が「放射状」に排列されるのは、司書が入庫者を常に見張るため。現代思想なんかで流行りだった「パノプティコン」とおなじ原理。文庫本とかをポケットなどに入れられるのをおそれてのこと。1970年代の「開架室(=いまの図書館の本のならべ方)」とはぜんぜん違うので注意。
「下足(げそく)」のまま登館できるのが特色とはオモシロ。当時はまだ、図書館を含め下足をとるところが多かったにみえまする。そういえば、西部古書会館(高円寺)だけはまだ下足をとるね。古式ゆかしい。
「日光消毒室」ってのは、本を消毒するのかな。まさか来館者を消毒するわけでもありますまい。「読書衛生」という熟語は、昭和30年代までまじめな課題であったけど、いまとなっては、ただの道徳の問題になっちまってますが。ただ、当時は、そう、生きるか死ぬかの重要問題でありました。
この開館の記事に、すでに「実業図書室」が特色として挙げられているということは、開館時からビジネス支援をやっていたということなのだろうなぁ。するってーと。