書物蔵

古本オモシロガリズム

満洲に消えた楠田五郎太 1

楠瀬日年の『書斎管見』を掘り出して、書斎研究というものが戦前あったのかなかったのか、ちょっと調べている折みつけたのが、
書斉管理の話 / 楠田五郎太. -- 研文館, 昭和10
という本の情報であった。
はじめて見る名だなーと思ったら、近年(というかわちきが図書館史を放擲してた間に)、注目されていた人なのねん*1

米井,勝一郎
満洲楠田五郎太--あわせて満洲国の図書館事情について
図書館文化史研究 (通号 15),41〜55,1998(ISSN 13426761) (日本図書館文化史研究会 編/日外アソシエ-ツ)
(Geniiより)

で。
このお人は、ブック・モビル(book mobile:移動図書館・図書館バス)を戦前に展開したひとということになっている。(20080806追記:これは昭和後期的な間違い。昭和後期の言葉の使い方から原文を見ずにいうと誤解しちまうですよ)
代表作が(というか、2つしかない著書のひとつが上記であり、もう一つが)これ。
動く図書館の研究 / 楠田五郎太. -- 研文館, 昭和10
詳しくは上記論文をみれば載っているんだろーけど(わちきは未見)、『図書館用語辞典』(角川1980)のには「自動車図書館」の項目(p.204-206)には全然でてこない。楠田さんは一旦はぜんぜん忘れられていたといえませう。自動車にかぎらず「図書館拡張(library extension)*2」の人。
こういった、ちょっとパンフレット的な本の所蔵ってのはあんまなくて。
いま、webcatをみると、

弘大 神市図 神女院大 拓大 筑大図情 同大 奈県図情 龍大

にあるという。
独立OPACを持ってる代表的なとこをみると、

成田山仏教図書館 早大 臺灣大學圖書館 国会

あたりだねぇ。

当時の専門書誌(というか専門の総合目録)をみる

あ、そーだ、だと、『図書館学及書誌学関係文献合同目録』をみると、(金沢文圃閣版p.155)にちゃんと載っていて、当時の所蔵館がわかる。

朝 朝鮮総督府図書館
連 満鉄大連図書館
函 市立函館図書館
日 東京市日比谷図書館
奉 満鉄奉天図書館
京 京都帝国大学附属図書館
間 間宮文庫
大府 大阪府立図書館
帝 帝国図書館
天 天理図書館
早 早稲田大学図書館

朝鮮総督府図書館蔵書って、いま、どーなっておるのだろか?
函館市立中央図書館のOPACによれば、超レアな『書斉管理の話』は出てくるのに、こっちはでてこない。
日比谷は5.26の空襲で焼けた。
京大は自前OPACを引いても出んが、モノとしてはありそう。遡及入力がまだなだけとわちきはにらんどる。
間宮文庫(在大阪)は焼けた。いまの(在富山県立)にあるかどうかは冊子の蔵書目録をみないとわからん。そしてそれは友人がもっている。
大阪府立は持ってるはずなのだが。。。遡及入力していないようだ。

古い書誌・蔵書目録を生かすには

いま、わちきがやったように、そのコレクションがいま、どうなっておるのかを知ったうえで、その線から再検索をかけていく、ということになる。
早大みたいに、自前のOPACにしかデータを出してないとこもあるし、データのより詳細なものがでてくることが(特に雑誌の各号情報)ある。

それにつけても遡及入力は

でも、たしかにブツとしては存在するはずなのに、OPAC上にでてこないから「(使え)ない」ということになる本もたくさんあるはず。
旧帝大系の図書館には、そーいったお宝がたくさん放置、じゃなかった保管されているといううわさ話はよく聞くところ。
そーいったところは、おおいに遡及入力に意をそそいでほしいと思うが。
けど、一見「後ろ向き」な事業ってのは、素人受けせんからねえ。予算がつきづらいだろうなぁ。
結局、遡及入力というのは、よっぽど熱心(か蔵書の少ない)なとこじゃないとやらん、ということを勘案して、どこにありそうなのか、あたりをつけるということになる。
そーゆー意味じゃあ、とにもかくにも明治百年の記念行事ではじまった国会のデータ整備(当初は冊子目録)が、明治・大正・昭和前期、とすすんだのは誉められてよいとされる。

*1:ググったら例の加藤『植民地図書館』2005で扱ったとあるから見てみた。p.251-252にちょろっとあるきり。しかし、索引がない本を出したやつは死刑って格言を知らんのかねぇ。それに、やたらと戦後に結びつけとるが。そんなこと言ったら、わちきだって前川御大を戦時読書運動に結びつけることもできちゃいますがな。

*2:対外活動という訳語・省令科目もあった。