書物蔵

古本オモシロガリズム

日本経営史学の発展段階から日本図書館史学の発展段階を考へる(^-^;

「経営史学の50年」を読む

いやサ、なしてこがいなもんにキョーミがあるのかっちゅーと。
もとは本の分類の際に、おなじ対象で、産業史と経営史で分類を置きわける必要があるのかっちゅーとこからなんだわさ。
その点で、この研究展望満載の本のうち、

  • 武田晴人「経営史と産業史」『経営史学の50年』経営史学会編、日本経済評論社、2015.3、pp.183-192

はヒジョーにオモシロかった。
武田が伝えるところによると、そもこの論文が書かれたのは、

日本における経営し研究の国際的特徴のひとつに経営史を産業史の文脈で議論するという伝統

があるからだとか。

産業史と経営史はどうちがう?→対象の取り扱い方が違う 典型VS.革新

ぢゃあ、産業史と経営史はどうちがうの、ちゅーことになる。
もともと産業史のほうが先行していたわけだけど、この産業史で特定の企業に言及する場合、
その会社の独自性よりも、当該産業中(当該業種中)における典型例として、つまり代表例として持ち出されてくるということらしい。
それに対し、経営史の場合は、その企業の固有性や独自性、とくに当該業種における革新性に注目するという違いがある。
武田は、事例として個別企業を題材とした産業史研究が

限定された資料状況の中で、産業の発展の具体像を描くことに成功してきた

と評価する一方、1970年代に特定産業中の独占研究の産業史が、結果として経営研究に途をひらいてきたとも指摘する。だって、独占状態ならば、1企業=1産業だからね。
もちろん産業史と経営史のちがいはそれだけぢゃあなく「方法としての企業史*1の可能性」(p.187)というが、この論文内では論じられていない。

資料(史料)の限界を

じつは産業史で、典型例をつまみぐいするために個別企業へ言及していくという手法は、「限定された資料状況」のなせるわざだったという武田の指摘はヒジョーにオモシロぢゃ。独占企業研究でも、同様で

初期の独占研究は資料的な言海もあって〜営業報告書などから得られる経営指標〜に関心が集中し、企業の内側に踏み込む力は弱かった

と、その弱点も指摘している。
その後、経営史研究が発展したので、1990年代に

企業史料の発掘や整理を促し、個別企業の実証的な研究の可能性をさらに開いていった。会社史や経済雑誌の記事、経営者の伝記などを超えた実証性の高い研究が求められるようになり、それが可能な研究状況が個々の研究者たちの資料探索にもとづいて生みだされた

という。

わちきの好きな○○史

一般史学および伝統的政治史に対して、法制史、経済史など、分科学における特定史において、むしろ歴史主義が自覚されるといふ話を森さんに聞いた。なんでこんなことやっとんの(*・ω・*) ってな疑問があるわけだね。
特定史という点では、わちきが趣味にしとる出版史や図書館史も、日本経営史学と対比するとオモシロぢゃ(゚∀゚ )アヒャ
出版史においては1980年代までの、個別出版社の興亡史観ぢゃあダメぢゃん、公文書館で文書を発掘して実証的にやろうよ、と提唱したのは1990年代、日本出版学会歴史部会をリードした稲岡勝さんと浅岡邦雄さんであった。その研究の場が、『日本出版史料』1(1995年3月)〜10(2005年10月)ぢゃったが、これが頓挫してしまってさみしいのー(*´д`)ノ
いっぽうの図書館史はどうなのか。このまへ読んだ柳与志夫『文化情報資源と図書館経営 : 新たな政策論をめざして』(勁草書房, 2015.2)ぢゃあ、とーってもチビシーこと書かれちゃってたけどね(゜〜゜ )
産業を業種と見立てれバ、図書館業界ともいへるわけで、じつはまだ超えられるべき

会社史や経済雑誌の記事、経営者の伝記など

のレベル、つまり

図書館史や図書館雑誌の記事、図書館長、司書の伝記など

をきちんと編成するところからはじめないといけない状況なのでは(σ^〜^)σ その後にこそ、図書館「史料の発掘や整理を促し、個別」図書館「の実証的な研究の可能性がさらに開か」れるようになり、さらに「それが可能な研究状況が個々の研究者たちの資料探索にもとづいて生みだされ」るようになるのではあるまいか…(´・ω・`)
などと夢見てみたら、オモシロからうのぅ(*´д`)ノ

追記1 経営史研究者は経済史研究者から転向組

柴田はこんな指摘もする。

研究者の養成において経営史学固有の出自からの若手研究者の育成がそれどほ活発ではなく、経営学の研究者のなかからも期待されたほどには歴史的研究に対する関心がひろがらなかったことから、次世代の研究者の供給源を専ら経済史研究に依存していた。

へー、そうなんだぁ。その伝でいえば、出版史研究は1990年代、じつは司書上がりの研究者によって主導されていたといえる。彼等はもちろん史料発掘もしたけれど、そだけぢゃなく、

といった出版史に使える出版物のまとめもしてゐる。これはやはり一度はせねばならぬこと。
いや実は図書館史でもこういったものはまとめられかけたんだけど。

  • 図書館史に関する文献目録 / 図書館史に関する文献目録編集部 編. 図書館研究会 (図書館短期大学内), 1970.

あまりに小規模だったし後が続かんかった(*´д`)ノ

追記

これを読んだ森さんから電信が来た。
電信によればこのエントリ、「かういふアナロジー(類推、相似)は好み」とぞ。
なかで森さんの話とわちきがしているものは、つぎの文献によっているとも。

文獻名を擧げておくと、南川高志編著『知と学びのヨーロッパ史――人文学・人文主義の歴史的展開――』所收の佐々木博光「第七章 啓蒙主義と人文学――近代ドイツにおける歴史の科学化、科学の歴史化」(ミネルヴァ書房、二〇〇七年三月)を參照。 Cf. http://www.minervashobo.co.jp/book/b49356.html 同書の要約・感想はソーシャル・ライブラリーに記しました。 http://www.sociallibrary.jp/entry/4623048470/

*1:武田は明示していないが、経営史=企業史と解釈できる。