書物蔵

古本オモシロガリズム

「業界」という概念はいつ成立したのか?

実業界や産業界、工業界など、特定語と複合した「業界」なら明治半ばからあるのだが、そうでない「ギョーカイ」の事例がない。「実業・界」、「工業・界」ぢゃなくって、「業界」とか「この業界」とかいう用法ね。
このギョーカイ概念が成立してなけりゃあ、ギョーカイ紙なるものも、(実態上は存在しえても)観念上は存在しないことになる。
かういった場合、まづ見るのハ日国である。日国がひけないと人文社会系で研究はでけんねぇ。

ぎょう‐かい[ゲフ:] 【業界】〔名〕
同一の産業や商業などに従事する人々の社会。事業の社会。同業者仲間。
業苦〔1928〕〈嘉村礒多〉「猶それから白鷹、正宗、月桂冠壜詰の各問屋主人を訪ひ業界の霜枯時に対する感想談話を筆記して来るやうに」
*闘牛〔1949〕〈井上靖〉「業界に全くのニューフェイスとして、めきめき売り出してゐる東洋製薬の社長三浦吉之輔だった」
とむらい師たち〔1966〕〈野坂昭如〉「なんせこの業界も人手不足やそうやからな」

昭和3年の例があがっている。
つぎに新聞か雑誌の論題レベルの早期の例を採取する。これに使えるのは今、皓星社の雑索と、雑索がはりに使えるヘンテコ名称な国会のDB。まづハ皓星社
論題レベルでの初期の例は、昭和3年ごろ。奇妙にも日国の用例に一致する年代。この年、なにかあったのだろうか。

  • 「変転窮りなき業界浮沈の跡」『文藝時報』85 (昭和3年10月11日)
  • 佐藤掬水「大阪を中心とする業界の諸題−運送協会大会の近づくに際し敢て識者の一考を煩はす」『海陸運』18ノ9(昭和03年)
  • 「非円本の傾向漸く濃厚、業界の為に喜ぶ」『文藝時報』90(昭和3年11月22日)
  • 田中純一郎「国産映画の危機 清算準備期にある日本当業界」『映画往来』5-58(昭和4年12月1日)
  • 「業界昨今の諸問題に対する名士の所見」『海陸運 』19ノ1(昭和04年
  • ○の子「<出版界>業界新聞に総花」『文藝時報』143(昭和5年9月4日)
  • 田中弟稻「業界に於ける資産評價と責任準備金の積立方法に就て」『株主協會時報』8-4(昭和5年
  • 佐藤掬水「業界不況の対策如何」『海陸運』20ノ8(昭和05年
  • 迷宮生「業界漫歩」『文藝時報』148(昭和5年11月6日)
  • 「業界片々」『文藝時報』149(昭和5年11月27日)
  • 矢野兼三「郡小工業の業界攪亂性と工場法の適用」『法律時報』4-7(昭和7年
  • 「地方通信 京城業界通信(出版屋さんの視野に入らぬ朝鮮、朝鮮は未だ赤本やカズ本時代、古本の供給も亦不充分、朝鮮の将来は如何に)、神戸(掘出しエピソード)、大阪だより」『日本古書通信』3(昭和9年2月25日)
  • 「地方通信 岡山通信 大阪 東京業界だより」『日本古書通信』20(昭和9年11月15日)
  • 「地方通信 京都だより・新潟通信・東京業界消息・大阪通信・展覧会予告」『日本古書通信』21(昭和9年12月1日)
  • 「夏の業界人」『日本古書通信』13(昭和9年7月25日)
  • 高橋誠一氏談「大震災を顧みて現在の業界を想う」『日本古書通信』15(昭和9年9月1日)
  • 「学界ニュース・業界ニュース」『日本古書通信』16(昭和9年9月15日)
  • 「学界ニュース・業界ニュース」『日本古書通信』17(昭和9年10月1日)

日本大百科全書(ニッポニカ)
業界紙 ぎょうかいし
特定業界内の専門紙。読者も、当該の業界関係者を予定して編集発行されるものであることが多い。専門紙が、政治、経済、工業、書評、スポーツ、教育の専門紙といったように把握できるのに対し、業界紙は、さらに細かく、各個別産業内の情報を取り扱う業界専門紙ということができる。内報、内報紙と称されることもある。英語ではtrade paper, business paperといわれる。刊行形態は日刊、週刊、旬刊、月刊などさまざまで、業界誌というべき雑誌形態のものもある。
 日本では資本主義の発達とともに、1890年代ごろに誕生、発展していったが、第二次世界大戦中、1941年(昭和16)の新聞統制で一県一紙体制とされ、現在の業界紙の多くは戦後に創刊された。業界紙の団体としては日本専門新聞協会があり、2011年(平成23)1月時点で95社がこれに加盟しているが、1980年代中ごろから東京だけで1000社以上が存在するという推定もあり、その数と種類の実態はきわめてつかみにくい。
[桂 敬一]
佐野眞一著『業界紙諸君!』(1987・中央公論社