書物蔵

古本オモシロガリズム

消えた(消された?)人

一部で話題の、中野晴行『謎のマンガ家・酒井七馬伝』(筑摩書房2007)読了
出だしの、ドキュメンタリー的手法を部分的にとりいれた記述に、やや不安をいだかせつつも、中盤から俄然、おもしろくなり安心して読めた。
酒井は手塚治『新宝島』の共著者。
マンガ研究界では、コーラだけを飲んで餓死したといういささか奇妙な噂を残して消えたマンガ家とされていたという。
酒井七馬は、わちきは小学校時代によんだ『まんが道』で知ってはおったが、たしかそこでは、絵物語の作者と説明されていたのではなかったか。
著者は、断片的情報を手がかりに、精力的に取材と、そしてさらに資料調べ(各種資料館や図書館)をして、「消えたマンガ家」のひとりである酒井七馬の全体像を再現してみせる。
うなったのは、『新宝島』直後の二人の単著マンガが、どちらも『新宝島』より一見して平板に(技法的にツマラナク)なっていること(p.122-123)。これは、直感的にだれにでもわかるのでは。
また、手塚の全集に収められている『新宝島』はぜんぜん別物だという比較も(p.120)。
全集だけをみて「研究」する、なんてことは、マンガ研究においてもできんということですなぁ(って、あたりまえ)。
一次史料として『新宝島』初版の重要性はこれでますますあがったのに、復刊はほぼないでしょうなぁ。著作権が研究を阻害する例ですな。
書誌学的な考察も。そもそも初版は活版でなく「描き版」という数千部しか刷れない技術で造ったもので、40万部という通説は成り立たないという。
コーラ餓死説も40万部説も、広めてしまったのは誰あろう…

わちき的には

紀田順一郎先生が『新宝島』の小学生読者としてちょこっとでてきてびっくり。
さらにわちき的には、めずらしマンガ本の書影が掲載されとるなかで、国立子供図書館に所蔵されとるマンガにベタコラベタコラでっかいラベルが貼られているのが気になった。あそこは保存図書館ではなくて保管図書館なわけね(・∀・)
まあ考えてみればどこの業界にも、酒井さんみたいに、あとからの都合やなりゆき上、消えて(消されて)しまう人物ってのもいるのわけで。
図書館界でも何人かいるなぁとしみじみ(*゜-゜) 志智でしょ、○井でしょ、あと○でしょ、みんなアトからの都合上、その時そこにそうしていたって事実は、困るんだよなー こまるなー、こまるなーとみんなが思っているとアラ不思議。いないことになっちゃう(・∀・)