書物蔵

古本オモシロガリズム

南京図書大略奪(つづき)

昨年の9/1記事にコメントいただきました。びみょうに関西入ってる口調からなんとなくイルト氏に思われますが…(テキトーでいいので,できれば半値,じゃなかたハンドル・ネームをお願いします)。いずれにせよ,文献ご教授はありがたし〜

金丸論文つづき

で,すっかりうっちゃってた南京図書大略奪についてのつづき。
「記憶と記録のあいだ−中国「新方志」における戦争と図書−」『立命館経済学』2005.9
上記からネットでよめる(pdfファイル)。
といってもご教授いただいた金丸論文は,1980年代以降,大陸で新しくでた郷土史(新方志)から戦時中の中国図書館の史実を拾いだすというもの。おもしろし。
って本論もそうだけど,それよか,注記とか,加藤一夫氏の植民地図書館本批判とかが。
まあ,きっぱりはっきり進歩派(中国友好派?)なんで,それが気になるむきもあるかも。
けど友人がよくいってるのは,「歴史学だと最低限,史実という点で左派も右派も会話可能」だから。
それからわちきてきには,この前の号の,金丸氏の読書日記のほうにも興味。神田古本屋街に行こうとして神田駅で降りるという定番の話が。
それはともかく,わちきとしては加藤本が明確に批判されてるのに溜飲。てか,だれもこの本まともに書評しないってどーよ。

「植民地図書館本」批判

うん,外地一般(一部,内地)の日本図書館史に関する大著で唯一,最初の単行本*1でありながら,図書館関係誌に一切,書評が載らないってのも何かを暗示してをる。
逆に一般紙,それも日経が書評ならぬ紹介をだしてたのには笑った。日経ってのはよくもわるくも金儲け(と金持ちの道楽趣味)以外には無頓着なんだのう。
金丸氏は,大略奪の妄説も近年では是正されつつあるという(金丸氏の影響か?)それにひきかえ…

 これ[近年の中国での研究]と比較した場合,日本側の研究,とりわけ図書館史専門家が本年に公刊した著書は,お粗末な限りである。(略)
 同書は,本文404頁の大部の作であり(中略)概観した作品である。類似した通史が少ないだけに,一見すると貴重な成果という感触をもってしまうかもしれない。しかし,その立論はあまりに杜撰である。脚注すら付されていない。

と手続き論的な重大な問題を指摘した後で,自分の専門のchinaでの話で

日本によるこう奪と持ち去りを言い切り,しかもそれらが「支那事変」勃発前の1936年から「頻繁に起こっていた」とは,全く新しい見解だ。しかしながら,その実態が「不明」であるとは,詭弁以外の何者でもない。

以下,金丸氏は「事変」と「戦争」とは段階的にわけて考えなければならないとし,岡田温の言った「接収図書」はそもそも1941年の宣戦布告という「戦争」下で発生したものだと指摘する。だからこそ,日本は南京で拾った本を,日本がそうだと認める中国政府(ってチョウメイだけどね)に返還しているのだ。
実際,国際法上の戦争になると他国から武器が買えなくなるから,当時の国府軍も宣戦布告をする(される)と困るのだ。国府も戦闘継続という点で帝国政府と一致していたという歴史の皮肉。
いやぁ,びしーと加藤本の欠点をついておるのー (・∀・)
残念ながら各章が同様の欠点を持っている。わちきも批判を準備してをったが,めんどくさくなっちゃってねー。こうゆーのは専業の学者さんにやってほしいもの。そう,図書館史学なら,岡村敬二先生あたりかなー。図書館文化史研究会は… ちょっと好事家っぽいから,沈黙するのが関の山かしら。
ということで金丸裕一氏に一票。

でも中共もなぁ…

でも…
一応,指摘しておきたいのは現在の中国に日本と同様の言論の自由はないということ。まぁこれはわかっていることだろうけど,国内の「良識派」は無意識に,むこうの人も日本人と同じ生を生きているかのように感じてしまうから念のため。
「新方志」も,中央政府の検閲やら指導が及びづらい(素朴に見たまま聞いたままが書かれてる可能性が高め)ということがいえるのであれば,とってもよいんだけど。

別件:よい仕事はコソーリとしかしない国会図書舘という皮肉

あとこれは別件だけど,南京図書大略奪関係の論文の註で,国会図書舘の正史(五十年史)に図書接収がらみの記述がないという指摘は事実誤認(に近い)と思う。というのも…
この『五十年史』ってのがくせ者で。
いま古本屋でたたき売られてるのは本編。
って,実は詳細な資料編が別にあるのだ。
CD-ROMで。
そんな変な媒体で出すなっちゅーの。参照しづらいことおびただしい。その証拠に,金丸先生みたいな専業でも参照しそこねてるじゃないの。それに単体で売るからだれも買いやしない(古本屋にも出んし)。
紙でだせばいいのに。バカだなー。
図体ばかりがデカイ本編にくらべ資料編の中味は非常にいいのに,当時はやったCDなどで出すからまるで普及しない。
国会図書舘は雑誌複写といい近代デジタル図書館といい,本質的に良い事業はコソーリとやるくせがあるから*2
で,これにたしか図書接収の項目がきちんとあったはず(国会図書舘でない帝国図書館時代も,本編とちがって収録されてるということだね)。

*1:満洲については岡村敬二氏の本が嚆矢

*2:って,これはイヤミですから。宣伝が下手だということ。宣伝企画課とか作ったら (・∀・) どう?