書物蔵

古本オモシロガリズム

芸亭院(うんていいん)とうちゃくぅ〜

来たよ,来ましたよ,うんてい院
はぁ,大枚はたいて買いましたよー いつも1冊あたり数千円しかつかわない自分としては張り込みました。でも,これでも安めがみつかったんで(^-^)
芸亭院 / 桑原蓼軒. -- 芸亭院創始千二百年記念会, 1962
著者の「クワバラ・リョウケン」さんは全然しりません。というか,ほかに論文とか著書を確認できなかったもんで… 本書の奥付をみると…

本名桑原信夫。明治26年(1893)岡山県三石町に生まる。昭和3年大阪にて地籍社創立。もっぱら地籍図,火保図を製作する。昭和26年より,大阪市布施市,八尾市,吹田市豊中市河内市等の要請にて徴税用大梯尺地籍図製作。昭和28年第一線より引退し,専ら阿シュク[門がまえに人が△に3つ]寺研究に没頭今日にいたる。著書,奈良市町名詳解。

なーるほど。アマチュア研究家だったんですね。いわゆる郷土史家。どーりで出てこないはずだわー。著書とされる『奈良市町名詳解』も,大学にも国会にも県立にも(OPAC上は)みあたりませんねー。ちなみに「火保図」は火災保険料率をきめるためにつくられた地図で,詳細なため住宅地図の代用になるスグレモノ(らしい)。ゼンリンの住宅地図が戦前からあるかのように思っている人がいるのは困りもの。
で…
おもしろいオマケがついてました。
パンフレット『芸亭創始千二百年記念大会御案内
芸亭院が公開図書館の嚆矢であることは周知のことだったが,「この程その創始の時期が天平宝字六年(西紀七六二年)であることが史実によって明らかに」なったのと,「あたかも(中略)数えて千二百年に当たりますので」,記念の大会を開催することになった由。
うーん,「この程」が「あたかも」1200年ちょうどに当たるとは…… タイミングよすぎ(笑)。

 日時 昭和三十七年十一月一日(木) 午前十時
 場所 天理市 天理図書館

行事の最後に 講演「大和における物部氏の隆替」奈良学芸大学教授 池田源太氏 があったらしい。そしてパンフ末尾に

御出席の方には本会の記念出版物である桑原蓼軒氏著「芸亭院」を謹呈いたします

とある。わーい,出るよ出る出る〜 さっそく電話だ! なになに(電話奈良(2)二五五二)だって…… 架けられない…… 交換手にいえば繋がるかな〜? でも,ずいぶんまえから自動交換機になったんでしたっけ……
ともあれ「配り本」であったことがこれで証明されました。そうではないかと感じていたんですが,あたりー
序は新村出(シンムラ・イズル)。30数年まえの顕彰に関わったかららしい。
さてさて,ここでちょっと分析書誌しちゃう。
函つきでしたが,その函にはニワトリのロゴが。へー,この本て理想社が出したんかぁ。列挙書誌のデータにはぜんぜん出てこないからわからんかったよ。理想社って,こんな書誌学ちっくな本も出してたんだー意外意外(図書館学つながりなんでしょが,図書館学と書誌学が未分化だったとも解釈可)。
正確には,出版者が芸亭院創始千二百年記念会で,発売が理想社
え? 配り本なのに発売? そーなんです。奥付と函に¥700とあります。おなじ年の岩波文庫★ひとつが50円なんで(★システムを知らないって人はここにはいないですよね),ふつうの厚さの岩波文庫が★4つとして200円。いま5,600円はするから2,3倍としても……,えぇ〜っ!!いまの2千円程度で買えたのこれー。
日本の古本屋みると,18000〜26000円もする…(わたしは12000円で買いました。やっぱ高い。でも函や,記念会パンフ,それに天理図書館の案内パンフもついてたから超オトクでしたが)
刷り部数が少なかったのか,人気があるのか,書誌学だからか,おそらく全部なんでしょうね(^-^;)
ところで,この本については思い出が…
もうかすかな記憶なのですが,就職したばかりのころ,やっぱり神保町を経巡っていたとき,ある本屋(誠心堂書店)でこの本をみかけました。記憶では1万2千円だったかと。『高いな〜』とそのままうちすてたのですが,じつは今考えると,そんなに高いモノではなかったのではと思えるようになってきました。最近,図書館学史のほうへシフトしてきて以来,なんとかして1万ぐらいで手にはいんないかな〜と虫のいいことを考えておりました。
で,楽天でヒットしたというわけ。やっぱ日本の古本屋より安めだわ〜 それに誠心堂のは函がなかった記憶がある。だって函にデカデカと「石上宅嗣卿」の肖像が印刷されてるのに今驚いてるんだもの(笑)。
お店へ電話をかけたら,「あゝ,あれは一冊売りました…」と。ナヌ!売ったとな(゜Д゜;)。じゃあネットにある情報はなんなのか?!とアワテたら
…が,もう一冊あります」とつないでくれた。心臓にわるいよ…
「ちかくなんですよ」 へ…? なにが?
芸亭院」 あゝ,芸亭院ね。そうか…,そういえば奈良のお店だったわい。
ということで,アワをくいながらも入手できたという次第。わたしの分析では,配り本ゆえ,地元には結構でる本なんではないでしょか。
だから地元の本屋は,複数持ってたし,安めにつけていたのも補充できるという目算があったからでは。奈良の古本屋をまわれば,もしかしたら600円ぐらいで手に入るかもかも…(むりだって(笑))。
郷土史はその土地で網をはるのがよいのは知ってますが,芸亭院が郷土史ってのはたしかに奈良ならではですね(笑)。だてに古都じゃない。
書誌学は関西でもできるのかも。レンタカーで京阪奈の古本屋をまわりたくなってきた。