書物蔵

古本オモシロガリズム

 谷沢vs.紀田 紀田順一郎氏の功績

ってか,谷沢氏が一方的に紀田氏を攻撃してるわけだけど。むむ,やっぱ(分析)書誌学はこまったちゃんの方が得意なのかなぁ〜?
このまえ『読書の悦楽』(PHP文庫)の話をしたけど,イルムスで元版を買いました。で,そこに載ってたのが紀田順一郎への非難。
紀田順一郎は,渡辺昇一の『知的生活の方法』(講談社現代新書)がベストセラーになったのに嫉妬して,本は自分で買えという渡辺説に反対し,それより図書館設置運動せよと言っている,と谷沢氏は非難。
いやぁ,これはちょっといいがかり。紀田氏が図書館設置運動をいうのは,英米をみてるからなんすよ。
ただ,これは実はどっちもどっちなんであって,紀田氏が設置に成功したとして,その図書館に満足するかといえば,全然満足しないと思う(笑)。なぜって,中小レポ以降,図書館は貸出・要求優先でやってるんで,紀田氏のような閲覧・教養路線の本は集めないから。
だから,谷沢氏のいうように,日本には日本の国情があって,教養人は自分で本を買うしかないというのが結論的には正しかったりもする。紀田氏が(どちらかといえば)進歩派で谷沢氏が保守派っていう政治的党派のちがいも影響してるかも。
とはいえ,紀田氏の業績はもっと評価されてしかるべきだと思う。
風俗史の研究をはじめたこと,読書法の啓蒙につとめたこと,古書店の文化的意義につき啓蒙したこと,古書ミステリを開発したこと,一般人むけの図書館本を書いたこと,幻想文学を紹介したこと,荒俣宏をそだてたこと,電子化時代に書き手から提言をしたこと,などなど。
もちろんなんでもやったから,アカデミックなつめがあまいとか,ミステリの出来不出来があるとか,くりかえしが多いとか,瑕疵はあるけど,やっぱり彼がいなかったら読書文化はもっと低迷してたと思うよ。
谷沢氏は,私大とはいえ,お給料をきちんきちんともらえる身だし,紀田氏にそれでは,あんまりだす。
わては,紀田氏はもう卒業してしまったケド,大学時代は単行本ぜんぶ読んだし,彼しか指摘してないことって図書館関係でもあるんよ。
日本近代書誌学細見 / 谷沢永一. -- 和泉書院, 2003.11
で,「紀田順一郎が如何に破廉恥であるか」と書いてるけど,具体的な批判になってないし。で,この『日本近代書誌学細見』は,項目の内容に凸凹がありすぎ(笑)。でも,現代の日本の書誌学者の名簿としては使えます(笑)。元・国会図書館員の稲村徹元氏が,エロエロ斎藤昌三の弟子だったなんて,これではじめて知ったし。