書物蔵

古本オモシロガリズム

シベリアと、ミルクホールと官報と

アニメ『風立ちぬ』に出てきた西洋風日本菓子「シベリア(シベリヤ)」。
http:ja.wikipedia.org/wiki/シベリア_(菓子)
いまウィキペをみると、古川ロッパの戦後の回想がひかれている。
古川ロッパは、明治末から大正はじめ、早稲田の中学に通った時にミルクホールで喰ったといふ。

 学校の往復に、ミルクホールへ寄るのも、楽しみだった。
 僕は、早稲田中学なので、市電の早稲田終点の近くにあった、富士というミルクホールへ、殆んど毎日、何年間か通った。
 ミルクホールは、喫茶店というものの殆んど無かった頃の、その喫茶店の役目を果した店で、その名の如く、牛乳を飲ませることに主力を注いでいたようだ。
 熱い牛乳の、コップの表面に、皮が出来る――フウフウ吹きながら、官報を読む。
 何ういうものか、ミルクホールに、官報は附き物だった。
 ミルクホールの硝子器に入っているケーキは、シベリヤと称する、カステラの間に白い羊羹を挿んだ、三角型のもの。(黒い羊羹のもあった)エクリヤと呼ぶ、茶褐色の、南京豆の味のするもの。その茶褐色の上に、ポツポツと、赤く染めた砂糖の塊りが、三粒附いているのが、お定りだ。(だからシュウクリームにチョコレートを附けた、エクレールとは全然違う)
「甘話休題 III」 『ロッパの悲食記』(筑摩書房、1995)