書物蔵

古本オモシロガリズム

Senryu (Japanese satirical verses) of lending libriaries

「図書館川柳」のうち、前近代のものというのは比較的さがしやすい。というのも、レファレンスブックが一応、整備されており、図書館現象にあたる前近代の社会装置は「貸本屋」「文庫」であるということが明らかでなので。

かしほんや【貸本屋】読本、草双紙の類を貸して歩いた渡世。貸本の荷を山のやうに積み、大風呂敷で包んで背負ひ、屋敷の奥向、又は妾宅、遊女屋などへ盛んに出入りしたものである。極内々では、淫本なども貸した者があつた。『おや馬鹿らしいと本屋にぶつ付ける』はその例句。
 貸本屋無筆に貸すも持つて居る 即ち和印絵本
 貸本屋密書三冊持つて来る 同上
 貸本屋何を見せたかどうづかれ 同上
 貸本屋これはおよしと下へ入れ 同上
 筆豆なとく意にこまる貸本屋 書入れされるので
(『川柳大辞典(上巻)』大曲駒村編著 高橋書店 1962 p.369)

ひとつだけ、わちきのヒジョーにつたない英訳(英作文きらい)

貸本屋これはおよしと下へ入れ
A polite lending librarian prohibits a polite customer to read pornography in his library.
(上品な貸本屋は、持ってきててもエロ本は相手を見て貸さないようにするもんよ)

ところで、貸本屋さん→lending librarianで良いのかしら(^-^;)アセアセ
上記の、大曲駒村の『川柳大辞典』の、後継にあたるレファ本もあり、そちらには出典がある。というか、駒村のものの欠を補うべく、新編を出したという。出典もたどれ、索引もあり、これはよい。

かし本や唐と日本を背負てくる (四八30) 中国の物語をも
かし本や何を見せたかどうづかれ (三7) 艶本を見せたか?
貸本屋密書三通もつて来る (ハコ四1) 艶本は三巻一組
身の上をむだ書きにあふかし本や (明三松4) 身の上話なのに物語だと思われ
筆まめな得意にこまるかし本屋 (二四18) 書込みやいたづら書はとても困る
(『新編川柳大事典』粕谷宏紀 東京堂 1995 p.154 ()内は典拠番号)

と。
あわててコーニッキ氏の、これまたすばらしい本*1を参照すると、9.2.4 Commercal lending libraries という章があり(p.391-)、貸本屋の活動開始を証明する1703年のこんな句が引かれていた。

The end of the year - when the bill comes in for books borrowed.
借リ本の書出しか来ル年境イ

ぜんぜん別の本には、こんなんもある。

貸本屋外題ばかりの学者なり

日国には、外題学問、外題学者の項があり、おおむねホメ言葉ではないようだ。
ここではlending libraryをとりあげたけど、ただのlibraryもあるよ。
こんなのもあった

かなざはぶんこ【金沢文庫武州久良岐郡金沢称命寺内に在つた文庫。足利実時の子、金澤顕時の建つる処で、下野の足利学校と対称された。
 金沢文庫小机も遠からず 小机の城近し
 金沢文庫土産にと娘の子 江島の貝細工
(駒村 p.391)

*1:The book in Japan : a cultural history from the beginning to the nineteenth century / by Peter Kornicki.. -- Brill, 1997.. -- (Handbuch der Orientalistik. Funfte Abteilung, Japan ; 7. Bd. = Handbook of oriental studies.)