書物蔵

古本オモシロガリズム

 高橋伸夫から図書館経営を想う

高橋伸夫『<育てる経営>の戦略』を一気に読了。おもしろい本だが実証的な部分や学説紹介の部分が他の部分とトーンがちがってムズイのが残念。
この人の本は,大昔,「やりすごし」を読んだ時にも思ったけど,わかりやすさとわかりずらさが妙に併存しているので困るよ。
けど,全体としてこの人の日本経営学における存在意義というのは買う。
全体を,・成果主義のバカバカしさ ・競争優位の学説 ・人材をそだてる の3つにわけてココロに残ったことをメモ

成果主義のバカバカしさ

まあこれは著者の持論の部分。そんなに実証的なわけではないが随所にこれはと思わせる警句あり。例えば,「客観評価それ自体が問題だ」そうな。

本来評価というものは,おおげさに言えば,上司が己の全存在をかけておこなうべきものなのであって,ダメならダメ,よいならよいとはっきり判断して,自分が責任をもって伝えるべきものなのだ。最後の最後は主観的なのである。(中略)自分が意思決定をしたということすら認めたがらないような上司が,いくら言葉巧みに説明しても,人の心を動かす力はない。p.23

なーるへそ。マニュアルに従って自動的に客観的に評価できるんなら,そもそもそんな仕事はアルバイトに任せるべき。
「自分が意思決定をしたということすら認めたがらないような上司」ってゲラゲラ笑った。締め切りギリギリまで何にも言わないで,しょうがないから部下達がかわりに決めてあげると「ボクもそう思ってたよ」という上司がいたなぁ。
いまAmazonの一般人書評をみたけど,前著『虚妄の成果主義』は毀誉褒貶がはげしい。けど,著者が挑発的にくりかえし指摘しているように成果主義で成功している企業が皆無であるというのも事実らしい。

コンサルタントの指導を受けて成果主義を導入しようとしている会社の人から問い合わせがあり,せっかく導入するのだから成功させたい。成功例と成功の条件を教えてくれと私に聞くのである。私があきれて,「それはお金を払っているコンサルタントに教えてもらうのがスジでしょう。彼らには,その義務があるはずです」と答えると,なんと教えてくれないというのである。

高橋伸夫に批判的な連中は,いまさら年功序列に戻せないとか年功序列がいいものとはいえないということらしいが,この人の業績は年功序列のすすめというより,成果主義で上手くいった日本企業は1つもないことを指摘したところにあったと思うぞ。
動機や論理構造がどんなに美しい概念でも,結果がわるければ改めるにしくはなし。これプラグマティズムの要諦なり。過てばすなわちあらたむるにはばかることなかれ,ともいうぞ。
著者のいう成果主義とは,できるだけ客観的にこれまでの成果を測ろうと努めたり,成果のようなものに連動した賃金体系で動機づけを図ろうとする考え方だという。
どっかの会社でも,いまから成果主義を導入しようとしてやしませんか。

競争優位の学説

この部分は学説のまとめ。著者の主張そのものではない。70年代まで米国経営学では企業がある市場の中でどう泳いでいるのかを研究してたけど,80年代から,そんな研究してもだれでも知ることができる業界平均のことしかわからないんで経営に役立たない,それよか,ある企業がどんなレアな資源を使っているかを研究したほうが,経営に役立つということになったという。「資源や能力の蓄積過程こそ鍵」なのだという。

実際トヨタでは,現在でも部品の内製/購入の決定は,トップ経営陣による専決事項であるという。購買担当者など現場の人間が内製/購入を決定しようとすると,どちらが安いかという短期的な経済性にもとづいた判断をしてしまい,長期的な資源や能力の蓄積という観点が欠落してしまう傾向にあるというのが,その理由らしい。p.157

ははぁ。これは図書館経営にもそのままあてはまる。

図書館の競争優位

図書館業務は大きく収集,整理,保管,閲覧(リファレンス含む)に分けられるけど,それぞれの場面で下手に外注すると図書館全体の機能がおちるから。
例えば公共図書館で真っ先に外注になったのはおそらく保管,てゆーか製本ね。製本を「内製」に残した図書館は皆無に近いはず(未調査)。その結果だと思うんだけど,資料保存に関する話が1970年代に国内から蒸発してしまった。1980年代に米国渡来の酸性紙問題が提起されて表層的には流行ったけど,いまだに現場は簡易な製本の研修ですらアリガタイ状態で…,紙の目すら見分けられないで,あんたらほんとに「図書」館員かと
次は整理。しばらく前にどこもかしこもTRC(図書館へ本を卸す会社)に外注しまくって,これまたどんな整理法がいいのか,とか書誌をつかうスキルも一緒に消し飛んでしまった。つまりリファレンスのチカラも落ちたんだわさ。国会のOPACをちょろっとマジメにひけばできるようなことも,できない,などということになっちまう(過去記事「闘病記文庫」参照)。
そういったものに自覚的だったトヨタは経営陣がしっかりしているのでしょうね。購買担当がむやみに外注するのを座して見ていた図書館経営陣しかいなかったんですね日本には。
製本とか整理とかを「内製」している図書館がもしあるとすれば,それは実はかなり競争優位の元なんだけどなぁ。
競争優位の学説をのべる部分は,「コレクションの価値」という話で始まっていて,個人文庫の価値をひきあいにだしてきている。
教員が退職して,その文庫が図書館に収まってしまうと価値はけしとんでしまうのだそうな。自分だったら「その配列のままくずさずに」ひきとるのだそうな。要するに著者は,一冊一冊の個別の価値よりも,それを集積するノウハウの方に価値があると言いたいらしい。

育てる経営

著者は,ノウハウが残存している今のうちに「日本型年功序列」を復活させよと主張しているが,その目的は,金銭以外のモチベーションを引き出し,ノウハウの次世代継承をみちびくことにあるようだ。「人材はどこからも降ってこない」ので内製せよというところ。
これは自分にも耳の痛い話だわさ。自分は若い人苦手。というか,むりやり飲みや勉強会に誘うってのが苦手だからねぇ(著者は「首根っこつかまえてでも」ってゆーけどねぇ)。
でも,そういえば,むかしの図書館の中の飲み会や勉強会ってのは人材育成に役だってたのかも。飲み会も勉強会も,とーっても減りましたね。知ーらないっと。