書物蔵

古本オモシロガリズム

陣中の読書

陸軍内の投稿雑誌『遍以多以』

以前、森さんに次のものを古書展で拾ふてもろふた出版社PR誌が、今回の払い出しででてきた。じつは出版社PR誌に、出版史にかかわる重要記事が載ることは、こりゃまぁ常識のたぐひか? っても出版社PR誌って、図書館ぢゃあ事務用資料あつかひされて残らんことは、これも常識??? それはともかく……。

  • 兵隊の投稿雑誌『兵隊』をめぐって / 石田一郎〔談〕,大浜徹也〔談〕,鈴木正夫〔談〕. -- 刀水書房 2002 (刀水 ; No.6)

上記書誌が出版社PR誌にもかかわらず単行本の形式なのハ、長崎県立長崎図書館の書誌をコピペしとるから。
この投稿雑誌は、広東で、南支派遣軍報道部により1939-1944に刊行されたという。

[1号] (昭和14年5月1日)-39号 (昭和19年5月)

ほとんど残存しとらんので2004年に刀水書房により復刻されたのだが、つぎの紹介記事が朝日新聞にある。

計1942ページ、3万1500円。出版後に37〜39号が見つかり、増補版を出す予定。
朝日新聞』2004年08月16日朝刊 p.26

わりとテキトー

上記座談を読むと、けっこうテキトーに人をあつめてきて、自由に編集していたみたいである。

石田 同盟〔通信社〕だけでなく、各新聞社の支局が〔広東に〕あったわけです。これも個人的な事ですけれど、私の書いたものははじめ兵隊としてのその支局を通じてこの雑誌に載せてくれたわけです。それが縁で編集に参加するようになった。ですから報道部の『兵隊』編集室というのはそういう点では非常に自由でね、上から押しつけられた編集方針というのはまったくなかったです。(p.16)

聞き手はさかんに、上層部――たとへば馬淵逸雄といった報道部長――の指示があったのでは、と聞くんだけど、編集者だった石田の返事は「直接「ああしろ、こうしろ」と言われたことは一回もありません」という。

鈴木 もっと戦意高揚するようなものを書けって?
石田 そうじゃないんですよ。戦意高揚じゃなくて娯楽性を持てって。あまりむずかしいことばかり言うなって。〜このいちばん最後の二冊なんかを見ると、多少そういう〔娯楽的な〕傾向は出てるんですけれど。〜

というが、出版史的にオモシロなのはその直後。

〜というのはそのころ内地から娯楽雑誌の送付が出来なくなったんですね、現地に。輸送船が沈められる、そういう緊迫した事態も迫っていたんですよ。(p.17)

この石田さんは1943年11月に除隊になったとあるから、その前の1943年秋には、内地から娯楽雑誌が大陸に送られなくなっていたということだらう。

ヒリピン、ジャワでも似たような新聞・雑誌

フイリッピンでは、『南十字星』てふ雑誌を出したとある。いま日古を見ると新聞ぢゃが。もしかすて、新聞形態から途中で雑誌形態に変はったのかも。

南十字星 比島派遣軍陣内新聞 南十字星文芸集 第一輯 昭17 二の橋書店 5,000円

最近では、陣中読書を早稲田の若い研究者が調査研究してをるとか聞く。
『赤道報・うなばら』というのもジャワで出たという。これは復刻もある。
中新聞は戦争期大陸でけっこう出ていたらしいが、雑誌というのはめづらしいのださうな(p.29)。