書物蔵

古本オモシロガリズム

錬成としての読書/自由主義的読書

戦後、どこに行っちゃったのかここ10年くらひ探しとるのに未だにわからない高橋慎一さんがかやうな物を書いてゐた。

  • 高橋慎一「読書指導について」『新刊弘報』(30)p.46-47(1943.10.21)

工場読書についてね。高橋さんは、東京芝浦電気の山口文庫という従業員向けの図書館の担当者で、社員や工員、特に戦時期に大量に動員されてきた少年工らに本の貸出サービスなどをしてゐた人。
メモするとこんなかんじ。

勤労青少年の図書購入
 出せる金額 少年工:2、3円/月 青年工:3、4円
 持っている本 講義録と青年学校の教科書 雑誌 単行本(数冊)

ただ著者の意図は「日本的世界観の確立」を目的におく「錬成としての読書」なので、やたらに本をたくさん買わせるのはよくないという。月々の支出計画を立てさせ、そこの図書費から買わせるようにしたいそうな。高橋は

多くの本屋さんは店頭を美々しく飾って多くの本が買はれる事を望んでゐるかもしれないが、私共はなるべくつまらぬ本は買はぬ様に、買ふ場合はほんとに二度も三度も読んで秋に愛読書を買ふ→様に仕向けてゐるのである。

ほかにも、神田には本屋が多いのに、京浜工業地帯には本屋が少ないし、並んでいる本も娯楽書ばかりだったとして、

配給行政を担当するものは親心を持って限られた文化財が真に皇国文化を発揚する様に地域的戦域的に適性配給を図っていたゞきたい

とする。
ここに表で示すとこんなかんじ。

- 出版物 書店 流通原理 コンテンツ 読み方
自由主義的読書 華美 偏在 「売れるから仕入れる」 娯楽本 濫読
錬成的読書 地味 普遍 「文化国策を遂行する」 古典 精読