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古本オモシロガリズム

『同人誌印刷のあけぼの』→ヒジョーに興味深いo(^-^)o

いや勉強になった。

  • 同人誌印刷のあけぼの / 吉本たいまつ (印刷)共信印刷 2015.12 36p.

同人誌印刷史が出版史に絡むわけ

わちき、印刷史はなるべく手をださんやうにしとるんだけど――といふのも活字論とかようわからんから――同人誌のような場合、出版(つまり同人による頒布)に印刷業が商業出版よりずっとダイレクトに影響しちゃふからねぇ(゜〜゜ )
実際、コミケにならなかったコミケ予備軍たちには、同人誌印刷業が主宰をしていたものもあったやうで。
自費出版の歴史をやらうか、としているわちきには参考になることおびただしいと思ふし、昨年末掘り出した戦前の同人誌出版のマニュアル本の読み時にも比較にならうかと、ばるぼら氏のツイートで気づいて頒布をお願いしてみたのが届いたのぢゃった。
友人らの分もふくめとりあへず3部を入手。

ウィキペでも1パラグラフのみの印刷史

サブカルには強いはずのウィキペ日本語版でも、コミケ初期の1970年代の状況についてはかなり後代の文献一つからの概括的な説明だけ。

1970年代から1980年代初頭の同人活動で作成されていた同人誌は、主にガリ版や青焼で作成されていた。これは、当時オフセット印刷の価格が高く、また印刷所からは最低でも1000部は発注することを要求されていたからだった。これに対し、1980年代から、50部や100部からの少部数を対象に、比較的低価格で、なおかつ高品質なオフセット印刷で同人誌を印刷する業者が登場した。これが現在の同人誌印刷所の原型である[1]。
1 ^ 「表現者たちへ」 米澤嘉博 共信印刷マニュアル(1994)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C%E4%BA%BA%E8%AA%8C%E5%8D%B0%E5%88%B7%E6%89%80

だいたい「「表現者たちへ」 米澤嘉博 共信印刷マニュアル(1994)」なるものの書誌も所蔵も確認でけんって、どーよ。それはともかく…

「軽オフセット印刷

吉本氏によると「軽印刷」といふ今は使われなくなった概念が重要で。
この言葉は戦前戦後は主にガリ版のことだったんだけれど、1970年代には「軽オフセット印刷」のことぢゃった。フツーのオフセットは原稿をフィルムに焼き付けて、それで金属版を作って印刷にまはすんだけど、原稿をそのままレンズで印刷用紙に投射してトナーを焼き付けるといふもの(ここいらへんの理解はまだ不十分ぢゃ)。
この、旧・軽印刷、ガリ版にかはる新・軽印刷、軽オフセットといふ技術革新があって、はじめて、マンガ(絵が主体の)同人誌が成立しうるやうになってきた。
それまでのマンガ同人誌はガリ版だと絵を再現しづらいので、原稿回覧雑誌の形態しかとれなんださうな。
いやさ実際、先行してあった「ミニコミ」印刷業もあり、実際、マンガ同人誌印刷を請け負ってくれたミニコミ印刷業も発掘してきてをるのだけれど、やはり、ミニコミは、社会や実生活といった方向であったので、マンガのほうにミニコミ印刷業は乗りだしてこなかったらしい。

なぜ軽オフの時代にマンガ同人誌だったの

で、軽オフセットだと100部から印刷注文をとれたのだそうな。フツーの印刷会社のフツーのオフセだと500部以上でないと注文を受けてくれなかったとか。
そこで出てきたのが、マンガマニア自身がはじめたり、マニアが現場にいた印刷会社といふことになる。
著者はあまりはっきり踏み込んで分析はしとらんが、部数のこともさうだけど、軽オフセは運用を上手くすると図版でもそこそこの画質になったそうで、そういった、意気に感じたり、丁寧にやってあげたりといった商売ッ気のあまりない印刷業者でないと、うまく同人誌印刷を受けられなかった、つまり、軽オフセといふ中途半端な技術があったからこそ、同人誌専門の印刷業が成立したといへさうである。
それらが現在、隆盛をきはめる同人誌印刷なのださうな。
日本同人誌印刷業組合なんてのも、あるね。
http://www.doujin.gr.jp/index.html
著者の調べでは2015年、同人誌印刷を請け負う印刷所は全国で約130だといふ。

インタビューと紙資料(文献)

いやサ本書のいいところは、印刷関係者にインタビューを試みたところ。実際、会社名を頼りに、ちょっとだけわちき、文献検索を試みたが、やはり印刷会社がむづいねぇ。本書はp.32で、インタビュイーがアニメ雑誌「アウト」の広告などを引き合いに出してたんで、「インタビューを補完して、小資本の小商いの歴史をたどるには、専門誌の広告を活用せねば」と我乍ら意をつようしたところ。 実際、インタビューって年代があやふやになるからぇ。広告でもいいから印刷物があるとインタビュイーも話が弾むし。

78年『OUT』(みのり書房)に、印刷価格を記載した広告を載せています。マンガ同人誌を対象にした印刷所の広告は、67年の『COM』に載った河本印刷社あたりがかなり早いものですが、コミケ以降に起業したマンガ同人誌専門印刷所の広告としては〔78年『OUT』の大友出版印刷の広告は〕最初かもしれません。

とある。
これはほぼ絶対、手許に雑誌現物かそのコピーがある言い方だねぇ(゜〜゜ )

批評

わちきみたいに趣味で研究をやっとるもんから見ると、これは同人誌のよいところでもあるんぢゃが、分析やら概念規定やらをやっとらんところがあるなぁ。
たとへば、おそらくこの本の成立の動機に、同人誌専業の印刷所が成立しとるのはなぜか、といったものもあると思ふんぢゃが、では同人誌専業の印刷会社はとりあえず、どんなもんと考えてみればよいのか(まぁ理念型ってやつですな)を検討してみてもよいかも。
わちきだったら、上記のインタビュイーの言葉から敷衍して、

  • 片手間に受けていたとこ:コミケ以前からあり
  • メインの業務として受けていたとこ:コミケ以後

あたりに二分して、調べた結果を分析記述するといった方向でやるのがいいのではと。
まあこれは余談ですが(^-^;)

余談

同人誌印刷につき研究したもんが見当たらないといふことぢゃったが、去年、どっかの学会の予稿集で、やっぱりインタビューしたといふもんを読んだことがある。まぁどこまで歴史にふみこんで聞いているかはわからんが、コピーは森サンに見せたあと、渡したんだっけ?(。´・ω・)? まあ出てくればここにメモしますが。
いずれにせよ、やうやく研究的スタンスが(同時発生的に?)出てきてありがたや、ということでござる(=´∀`)人(´∀`=)