書物蔵

古本オモシロガリズム

宮武外骨翁、「図書館学」を語る 附.エロ本と図書館学

宮武外骨著作集』には索引がない(´・ω・`)
これでは、朝倉無声(朝倉亀三)の罪状(の詳細)がわからん。。。残念じゃ。
と思ったら、カンケーないけどオモシロ記述をハッケーン(^-^*)

図書
新科学の一に図書学あり、又図書館学あり、図書学は図書の性質形式、沿革等を研究し、図書館学は分類、出納、保存等の方法を講ずる学科なるが、時の古今に拘らず、所の内外を問はず、性欲に関係する図書少なしとせず、是等の図書をも図書学に於て除外することなく、古淫書(絵巻物、浮世草子、絵本)の類は寧ろ珍重するの傾向あり、東西の図書館に於ても多くの古淫書を保存し、一般的貸出は許さゞれども、特殊の研究用に供せり
『猥褻と科学』大正13年刊(『宮武外骨著作集』第5巻1986所収)

My解説

いまでこそ「書誌学」などというが、この学問分野が成立したのは大正・昭和にかけてであり、「書誌学」なる名称も、『日国』では大正末ごろの成立とする。上記「図書学」は、書誌学とほぼ同義にして異なる名称。田中敬あたりが提唱せるもの。まだ「書誌学」という表記が勝ちを占めていなかった時代の記述。
その書誌学同様、「新科学」とされているのが図書館学というのはオモシロ(『日国』には「図書館」はあれど「図書館学」はなし)。
もちろん、科学ってても、「自然科学」というんじゃなくて、「分科学」という意味に解すべきだろうけど。
文意は、「書誌学も図書館学も、論理的にはエロ本も研究対象にできるよね。実際、あるんだし。」という指摘。さすが宮武先生!
ただ、「是等の図書をも図書学に於て除外することなく」という部分が、ゾーレンなのかザインなのかが微妙にわからず。
てか、平成18年のわちきからみるに、エロ本についてまともな考察が図書館学においてなかったということはいえる。書誌学?では、タイモン・スクリーチ春画』(講談社選書メチエ1998)で論争*1がもりあがったけど。

図書館学でエロ本は

図書館学でなぜに考察対象にならなかったかといえば、図書館人の「ヒューマニズム」(by安井一徳)のせい、ってことになるわなぁ。それ自体を問うてはならん公理とてもいおうか。
だけどほんとは、こんな「ヒューマニズム」は1970年代に新左翼あたりから批判されてしかるべきだったのだ。ほんとは木村隆美氏の「図書館員=労働者≠専門職」論から、館界の微温的なご都合ヒューマニズムの思想的限界が明らかになるべきだったんだけど、これがきちんと論戦として戦われず、お得意の批判派締め出しということで決着がついちまったのはマズかった。
わちきは今、新左翼を支持する気にはなれんけど、館界がきちんと新左翼(的思考)の洗礼をうけなかったのが、平成時代のいまにひびいていると思うよ。船橋西図書館の事件なんては、旧左翼の悪い側面だし*2、一方で、いまごろ新左翼的な思考実験やられても、ってなこと*3もある。
なにもわちきは「公共図書館にエロ本いれろ!ゴルァ」って言ってんじゃない。むしろ、なぜ絶対に入らないのかについて、もっと考察すべきなのだと言っている。これを考えていくと、逆に、なぜ国立図書館には、たいていの国でエロ本も入ってるのか解かってくるはず。そしてなぜエロ本があるか解れば,自動的にマンガや趣味の本があるのかもわかってくるというからくり。
国立エロ本図書館について→http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20050518/p1

「安くて良いエロ本」のたそがれは。

幸か不幸か、もはや「安くて良いエロ本」(by呉智英*4)が求められる環境(特に技術環境)ではなくなってきた。ネット喫茶へいけば、さしたる年齢チェックもなく有料の動画が見られるし、無料の動画・画像ならネット上にはいてすてるほどある。悩めるフツーの男の子たちは、あえてエロ本など求める必要はなくなってきた。
その結果、書籍や週刊誌、ビデオ、DVDなどのパッケージ系メディアにおけるエロ度合いは、低下しつつある。まだパッケージ系で気を吐いているエロは、それこそ同人誌のエロパロとか。でもこれは商業流通ではないし、オタク向けだわな。
かつて、街の書店・古本屋を始めるとき、店主の重大決定のひとつが、エロ本を置くかどうかということだった。
図書館とちがって、ほんとうの絶対的要求論に立てる(というか、たたざるをえない)書店・古書店ならではの悩み。あるいは、商業とは、極めて要求論的なものという事実。
エロ本を置かないで営業を継続できる街の本屋・古本屋というのは、ほとんどなく、結局は、エロ本、マンガ、文庫本で最低限の利益をだしつつ、やりたいジャンル(詩とか)も、やるという形が多かった。
マンガ・文庫の利益をブックオフに取られ、エロもネットに移行し、それが原因で街の本屋・古本屋も消滅したのではないか。
安くて良いエロ本のたそがれは、街の書店のたそがれでもある。

*1:春画でほんとうに自慰をしていたか否かというもの。これに関連してわちきが疑問なのは、昨今のマンガ喫茶でエロ本の所蔵があること。個人ブースで自慰をしていいのかどうか?

*2:旧左翼が悪いといっているわけじゃないよ。悪い側面。

*3:自由委員会が価値論的選書は子供の人権侵害だといいだして、児童青少年委員会とケンカになった件

*4:夫子は再販制擁護を求めるアンケートを茶化してこんな言葉を使ったのだと思う。