書物蔵

古本オモシロガリズム

小谷野敦「図書館の理不尽」を読み,日本資料保存論の跛行性を想う

なんか同じ「はてな」に小谷野さんがいることだし,わちきも図書館趣味なんで,図書館に文句を言っているという話を聞き及び『文学界』を読んでみた。
はしょると…

明大の図書館を便利に使っていたが,(事務局の)禁煙ファシズムで明大を追い出されて東大図書館を使わざるをえなくなった。
ところが東大図書館はコピーの料金カードが書庫内と外で違っていて,面倒くさいことおびただしい。そのうえ,むやみに「禁複写」のラベルがべたべた貼られている。さらには,対応した図書系職員(まぁ一般には司書ですね)も,美人系だがはなはだ冷たい対応

というところ(あくまで要旨。立ち読みなんで…(^-^;))
えーっと。
東大図書館員からみると,小谷野先生は問題利用者にみえるのだろうということは推察されますが,わちきは図書館趣味者にすぎないんで,第三者的な見方をしますと
小谷野先生のクレームはかなりイイ線いってると思いますです〜

司書の有資格者は,研究者に同情することが(構造的に)できない

きょうび,文系の研究者で,コピーをしまくらない人はいないと思いますし,美人司書さんがコピーでてんてこ舞いの小谷野氏に冷たくできるのは,氏が正当にも?邪推なさっているように,

司書は研究なんかしたことも,することもないから,研究者の切実さなどは,金輪際,知ったこっちゃーない

から。
だいたい,現行の著作権法,あるいは現行の著作権法の行政解釈,学理解釈(の,正確にはそのまた主流派の見解)なんぞ遵守していたらまともな研究などできないということは(とくに文系で),ちょっとでも「研究」なるものに手を染めていたら判るはず(これがワカランorわかりたくない人ってのは,実は「研究」したことがないか,したという人はその「研究」に重大なリスクを抱え込んでいる)。
けれど,司書資格の受給は,丸暗記して司書課程のテストで最低限の点数をとればいいわけで,べつに論文が必須なわけじゃないから,司書がさまよえる研究者に同情なんて構造的に持てないのだ。
もちろん,出る際に卒論が必須な学部に属していればいいわけだけれど…
どこですか! 卒論が必須でないとこは! そんなのへっぽこ学士ですらありゃせんがな。

司書資格は,卒論の単位取得で初めて発効さすべし

すまん,現行著作権法の解釈(や研究の方向)が嫌いなんで激しちった…(^-^;)アセアセ
べつに卒論が偉いわけじゃなくて(学術的価値は僅少),卒論を書かんとして苦労することが偉いのだ。
著作権については論じても詮無いなぁ。なーるほどと思った本は1冊しかないし。
模倣と創造 / 板倉聖宣. -- 増補版. -- 仮説社, 1987.11
あとの本は,まー,解釈学のつみかさねで,ぜんぜん思想じゃないし原理的な納得もえられない。
あっ,それはおいといて。
ここでは「禁複写」のラベルの話をしたいんだった…

ここ20年の資料保存論の成果が「禁複写」のラベルってか?

この「禁複写」ってラベルはなんでせう。
こりは…

ここ20年間,館界で表層的に流行った資料保存論の負の遺産

といいたい。
だいたい図書館資料ってのは,館種やコレクションの種類によって永年保存から,すりつぶしてよいものまであるんで,単に,劣化したからとか,古いものだからとかで愛護せにゃならんなんてことはない。個々の本が,中央館の本なのか分館の本なのか,分館の本でも小説本なのか郷土資料なのか,小説本だとしても,郷土の有名小説家の本ならどうか,ってなぐらいに,ぜんぜん違うあつかいに(本来)なるべきなのだ。
小谷野氏の記述をみてると,ありきたりの雑誌に「禁複写」のラベルをべたべた貼ってるようにみえるよ。
そんなラベルをべたべた貼ること自体が,資料を汚していることになるのではと,ものすご〜く,するんですけど…
酸性紙問題で,1980年代,資料保存論が流行ったけど,それは政策論とか運用論のほうにはいかないで,当初のモノの化学的な話で終わっちまった。そして中性紙が導入されて,化学的な問題は解決し,はい,おしまい
表面的,教条的に資料保存を暗記した有能司書さま方が,その館の保存方針など考えることもなく,単に劣化したから「禁複写」をべたこら貼りまくるってのは,もう犯罪的といってよい。それでも,個々の資料が劣化してりゃぁしょうがないけど… どこですか! 個々の資料の状態も判別せずに,請求記号で一律「禁複写」にしてるところは!
そんな「禁複写」なんていう下品なラベル貼りまくるまえにさ,個々の司書が劣化状態を判断できる目を養うとかさ,いろいろやることはあったはずでしょうに。ここ20年の日本資料保存論の成果が,「禁複写」ラベルの盲目的貼付であったとは… トホホ
もう一度言う,「禁複写」は単に資料の劣化状態だけの問題じゃない,その図書館の性格,役割,その本が属する個々のコレクションの性格,役割の問題だと。そして,しかるのちに,個々の劣化状態の問題だと。
 図書館におけるコピー(の物理的側面)については,「図書館「破壊」学入門」『図書館研究シリーズ』(22) p.65-132(1981)が古典と一部でささやかれている。最初に読んだときのけぞったよ。イイ意味でも悪い意味でも,きわめて奇矯な論文。特に注記が… とても… こんなの書いちゃっていいんでしょうか… ふつーの会社なら馘首もの…(・∀・)