書物蔵

古本オモシロガリズム

【掘出】 楠瀬日年 『書斎管見』 昭10


えっと,どこまで話したっけ。そそ,はじめての店で,ずばり図書館本を買った話。イイ店だったなぁ〜,固い本しかなくて。なんつーか,これぞ古書店って感じで。あーゆーところができてたんですねぇ。ぜんぜん知らなかった。

それから同じ店でこれも。いまよく見たら著者は新聞紙法の本もだしてるし,中身は法律もあり紙面の整理もあり,網羅的。おもしろそうすぎ!これで5百円とは…。いいのか?

新聞記事の取材と表現 / 山根真治郎. -- 増補再版. -- 日本新聞協会, 昭和16

まんぞく満足。で店をでたら,目の前に,このまえはじめて入った店が。で,また入ってみた。そしたら…

店番のおじいさん

おじいさんが店番してる。あれ,まえは若い人だったけど。ほかにお客はいない。にしても雑然としてるなー(きらいじゃないけど)。

おじいさんと世間話しながら棚をみる。店主はべつだという。やっぱりあの若い人なのかなぁ。どうせならレジ?にちかい奥のほう見ちゃおっと。

あれ,『書斎○○』ってのがあるよ。ははーん,またよくあるやつかな。え……?

???

これ「書斎管見」じゃないの!

ほりだし!

いやまて。おちつけ。どうせ高いよきっと。値段確認しないと。函からだしてと。やっぱり「書斎管見」だなぁ。たしかに。

書斎管見 / 楠瀬日年. -- 翰墨同好会〔ほか〕, 昭和10

あれ,値札がついてない。鉛筆で数字が書いてあるっきりだよ。え…… ロク・ゼロ・ゼロ

ろっ・ぴゃく・えんーぅ?! ゼロが2つしかないよ! 600! アタマがぐるぐるぐる…

これロッピャクエンですよね。ここに書いてあるし」と言ったら,おじいさん「そうですナー」って。嗚呼,いいのだろうかこんなことがあって。夢か。ゆめでならよくあるけど。

この著者しらないネー」とおじいさん。そして本を手に取りパラパラと。(あっ,あっ! そんなにパラパラすると本が壊れる〜 ほら,グラビヤ頁の糊は効いてないでしょ。やめて〜)

「へぇ,巻末に紙の模型がついてるネェ」「そうなんですよね」といいつつ(お願いだから,それを組み立てるなんて言いださないでくりー)

と本を閉めようとし… 「ちょっと貸してください」と本をうばうように受け取る私。なぜって,紙模型*1の薄紙が,そのままだと変なところで折り込まれそうだったのをシカと見たのだ

「とりあえずこれ買いますね。とっといてくださいね」といったんクルマへ引き上げる。駐禁とられたらアウトだから。クルマを廻して,またあわてて店へ戻る。そういえば,藤子不二雄の「魔太郎が来る!」にこんな話あったなぁ。古本屋で掘り出しをみつけ,持ち合わせがなくカネをとって店にもどると,売れちゃってたってえの。そんな悪夢が頭をよぎる…

おじいさんの話

店にもどったら,おじいさん「おかえりなさい」だって。古本屋でお帰りなさいって言われたの生まれて初めてだよ(って死ぬまでもうないか)。

おじいさん店主がもどってきたら叱られちゃうんじゃないかな。だいじょぶかな?って思った。それで…

ちょっと棚の整理しました。あんまり状況がすごかったもんで(笑。他の本も探したいという名目でボランティア。文庫にいいのがいくつかあったけど,持ってたりした。あとは書道の本があった。

本を並べながら,おじいさんと会話。もと映画文献蒐集家で,戦争前から集めてたという。ただ家は空襲で蔵書もろとも焼けちゃったとも。家が焼けるのを目の前でみてたそうな。自分はちかくの小学校に避難したけど,火がまわってきたとも。

わたしが行った幼稚園・小学校は昭和初期のりっぱな鉄筋コンクリの校舎で,みんな逃げ込んだんだ。けど火がはいっちゃって。「わーっ!」って一瞬だったって,唯一の生き残りだった文房具屋のおばあちゃんが言ってた。この日,檜の総二階屋だった実家も丸焼けに。

兵隊にもいって九十九里で陣地構築してたって。「あそこ米軍が上陸してくるっていわれてたんですよねー」といったら「よくしってるねぇ」と。たしか南九州への作戦はオリンピック作戦とかいうんだっだっけ。

店主さんは石川九楊に書をならったとも。書道といえば,きっとこの本,書物論じゃなくて書道のながれでこの店の棚にならんだんだろうって気づいたよ。そうか,それなら6百円でもわかる。

楠瀬日年(くすのせ・にちねん)は1888年生まれの書道家。本名は楠瀬恂(じゅん)。雑誌『書斎』に書斎に関する記事をかき,まとめたのがこの『書斎管見』になった,らしいということまでつかんでたけど。

この本,文人のお遊びの域を脱してるよー。ある人が曰く「すごくまじめな本」。同意しますです〜。欲しくなっちゃってねぇ。一時は,ネットにでてる函なし(1万以上)でもいいから,買おうかなと考えたり。

店をでてからもドキドキがおさまらないんで,しばらく神保町をウロウロ。景気づけにボンディで食事。

今日はとんでもない古本日和でした。

*1:おこし絵というそうです